小説(三題話作品: さる はいていますよ パクリ)

河童の中の河童 by 夢野来人

皆さん、河童ってご存知ですか。そうです、そうです。頭の上にお皿を乗っけて、ふらりふらりと歩いているあれです。えっ、何ですって。両手にもお皿を持ってて、棒の上でくるくる回してるだろうって。いえいえ、それは皿回し。
じゃ、ヒモでつないだサルに曲芸をさせるやつかって。違いますよ、それはサル回し。
するってえと、お正月にやる子どもの遊び、、、それはコマ回し。
嫌ですよ、おふざけになって。ほらほら、川で泳いでいるのを見たことありませんか。背中には甲羅があって、手足に水かきがあるやつですよ。
えっ、手足や頭、尻尾も甲羅に入れゃうやつだろうって。それ、カメですよね。
本当に知らないんですか。皮膚は緑色で好物はきゅうりなんです。
何ですって、そのきゅうりは割り箸に一本まるごと刺してあって、パクリパクリとかじるやつだろうって。
まあ、そういう漬物を売っている店もありますけどね。漬物じゃなくったって、生のままでもいただきますよ。こう見えても、私は河童の中の河童なんですから。
えっ、マヨネーズはつけるのかって、それ、河童に関係ありませんよね。
本当に知らないんですか。
では、純粋な河童ではありませんが、ハーフの河童ならご存知かもしれませんね。岐阜県は多治見市に出没する、ゆるキャラを知ってますか。
そうですそうです、35℃を超えると出没するというあれです。
あら、よくご存知じゃないですか。うながっぱ、正解です。でも、私はただの河童です。
うながっぱと何かのハーフだろって。違いますよ、向こうがハーフ。
じゃ、お前はクォーターだろうって。話がややこしくなっていますね。
私は正真正銘、伝説の生物、河童ですよ。うながっぱは人間が作り上げた架空の生物です。
いくら好き者の、いや、物好きな、いやいや、好奇心旺盛な河童でも、ウナギと交配したりはしませんよ。
わかりやすいようにゆるキャラを出してみただけです。何しろ、うながっぱと河童には決定的な違いがあるんです。
と言うのも、うながっぱは、むしろウルトラマンに近いのです。
どういうことかって?
彼らは、背中にファスナーある族なんです。
それに比べて、私の背中にはファスナーなんてありません。なぜなら、邪魔になるからです。この背中に背負ってる甲羅みたいなやつ、実はこれ酸素ボンベです。頭のお皿みたいなやつはスイミングキャップです。
手や足の水かきはボディとセットになっているウェットスーツです。
泳ぎやすように、手には手袋はめて、足には足ヒレはいてますよね。
やっぱり、うながっぱみたいなものじゃないかとおっしゃるんですね。
いえいえ、まったく違います。ほら、見てください、ファスナーは前にあるんです。しかも、見てください。このファスナーを開けると、中には人間ではなく、河童が入っています。
《了》


 河童の図 鳥山石燕画