「おいおい、聞いたかい。隣りに引っ越してきた外国人の未亡人は、スパイだって噂じゃねえか」
「ほんとかい。あんなに可愛い顔してるのに」
「スパイは容姿にも採用基準が高いようだな。水着審査だってあるかもしれねえ」
「なるほどな。で、どこのスパイなんだい」
「それが、アゼルバイジャン」
「なんだって?」「だから、アゼルバイジャン」
「そんなこと言われちゃあ、おいら、焦るばいじゃん」
「何言ってんだよ。おめえ、なまってんじゃねえか。どこの方言だよ」
「うちの田舎だよ」
「どこにあるんだい」
「よくぞ聞いてくれました。ここをまっつぐ、ずーっと歩いていくだろう」
「すると、どうなる」
「突き当たる」
「なんでい、そりゃあ」
「突き当たったら、右に曲がって初めての交差点の角の店に、すごい行列ができている」
「そこが、おめえんちかい」
「いや、本場博多のとんこつラーメン」
「そんなに、うめえのかい」
「それが、激まず」「ダメじゃねえか。なんで、そんなに行列ができているんだい」
「よく見ると、その行列は三本向こうの道にある風呂屋から続いているじゃあねえか」
「それが、おめえんちか」
「そのとおり、おいらの田舎です」
「ずいぶん、ちけえな。それにしても、すごく流行ってるじゃねえか。昔から流行ってたんかい」
「おいらが子どもん時から混んでたなあ」
「じゃあ、なかなか風呂にも入れなかっただろう」
「そこは、子どもさ。ちょいと親の目を盗んじゃあ、風呂場に入っちまうんだよ」
「そんなことして、怒られないのかい」
「いやあ、よく怒られたもんだ」
「何て言われたんだい」
「はよう、出んかい(電解)。混んでるさー(コンデンサー)ってね」
おあとがよろしいようでございます。