耕作はその昔、某大手建設会社の将来を嘱望される若き課長であった。
「この埋立地も、ずいぶんとでかくなぅたものだ。それに今では陸続き。当初の計画から携わってきた俺としては、妙に感慨深いものだ」
平和島の建設工事は最終段階に入り、現在では、とても島とは呼べないほどの規模に膨らんでいた。
耕作は、不思議な縁でこの計画を最初から指揮しており、会社の古株連中からの猛反対にもあったが、何しろ彼には若きオピニオンリーダーとしての自負があったし、何より回りの仲間が彼を後押ししてくれたこともあり、あれよあれよという間に計画は実行に移され、異例の早さで出世もしていたのだ。
あれから、何年経ったであろう。
「思えば順風満帆の人生だったな」
耕作は、ここ東京スカイツリーから見える平和島を眺め、一人物思いにふけっていた。
「俺の人生。それは、ひょんなことから始まり、急な上り坂を全力で駆け上がるようなものだった」
そうつぶやきながら、耕作は土産物売り場で一通の絵はがきを買い、何やらメッセージを書いているようだった。
「さあて、この絵はがきで紙飛行機を折り、天に向かって投げ上げれば、俺の任務も終わるというものだ。これからが、俺の本当の人生だな」
絵はがきの宛先は、なんと30年前の過去の自分であった。メッセージは平和島計画。
耕作は、スカイツリーの階段から、静かに紙飛行機を投げた。
その紙飛行機は、梅雨の晴れ間の空へと吸い込まれていった。
果たして、今度も30年前の自分に届くのだろうか。差出人は未来の自分と書かれた、絵はがきで折られた紙飛行機が・・・