ダイスストーリー<第1回>

携帯 by Miruba



裕子は、携帯を開いては閉じ、仕舞ってはまたバックから取り出し、受信の有無を調べた。


受信拒否になっているのだもの来るはずがないではないか。自分にそう言い訳をするのに、この恋が終わりを告げたなどと、思いたくも無かった。
だって幸雄は、合鍵を持っていったままだ。きっと帰ってきてくれるはず。
それでもすでに半年、彼のいない部屋は広くいたたまれない。
裕子は一人旅をしに長崎県の平戸島という西のはずれの島まで来た。
本土と島を結ぶ平戸大橋を渡る。幸雄のふるさとだ。
大橋の下に公園があったので、そこに車を停め、噴水のような形をした「水飲み」で咽を潤した。
海は碧く深く澄んでいて、たくさんの飛び魚が波間を跳ねるのを見た。
最近は地球温暖化のせいか、漁場が大きく変化し、船が出せないほどだと言う。


裕子はユネスコ世界遺産暫定の「長崎の教会群」のひとつ、宝亀教会まで足を伸ばした。
午後の早い時間なのにすでに景色は霧に包まれた夕暮れとなっていて、大きくそびえる木々が更に景色を暗くしていた。
教会堂のなかには、ランプが優しい光を放ち、ステンドグラスも美しく、静寂に包まれていた。
ミサがそろそろ始まろうとしていた。裕子が一番後ろの席に座っていると、隣に幸雄が座ってきた。
「・・お袋、だめだった」裕子に病人の世話をさせたくないと、一人帰郷したのだという。
「携帯に、『来る』って書いてあったから、待っていたよ」とささやいた。
いつの間にか携帯は通じていた。
裕子の手に、大きな手のぬくもりが伝わった。




この作品は第1回ダイスストーリーのお題に基づいて創作されました。
9つのダイスを転がし、偶然出た9つのイラストをすべてつかって、ドリームライブラリ作家陣が作品を作り出します。