ダイスストーリー<第1回>

もの思うカメ by やぐちけいこ



 ほんのちょっと昔、公園の噴水に仲良くカメと魚が住んでいました。
2匹の会話はおしゃべりな魚が寡黙なカメに話しかけることで成り立っていました。
寡黙なカメはしゃべらないからと言って何も考えていない訳ではありません。
その反対にいろいろ頭の中では考えているのです。
よだれをたらしもぐもぐと口が動いている時は美味しい事を考えているのでしょう。
時には鼻の下をでれ~っと伸ばし心なしか赤面していたり。


それを見た魚は囃したてたり笑ったりしていたのでした。
ところが今日のカメはいつもと違います。
何やら難しい顔をしていつものゆるい顔が見当たりません。魚が話しかけても答えが返って来ない。それはいつもの事なのだけれどどうにもいつもと様子が違う。いつもふらっと行く散歩から帰ってきてから表情が硬いのです。
誰かこの事を知っている者はいないかと防水携帯を取り出しアドレスを呼び出しました。


「!。そうだそうだ。この公園で一番高い木に止まっている鳥達に聞いてみよう」
アドレスから呼び出し電話をかけました。
「もしもし?一つ聞きたい事があるんだけど、良いかな。散歩から帰ってきてからのカメさんの様子がおかしいんだ。何があったのか知ってる鳥さんは居ないかな」背後で鳥達の鳴き声が響き渡っています。
しばらくして返ってきた言葉は「もしかしたら人間達にいじめられたからかも」という衝撃のものでした。カメさんがいじめられてる?多少いや、かなり抜けていると思うけれどそこが可愛いんじゃないかと思う魚でした。


次の日も散歩から帰って来たカメの表情は硬いものでした。


次の日も次の日も。


水の外に出られない魚は歯がゆい思いをしていました。いつも噴水の近くにある橋の上で甲羅干しをしているらしいカメはそこで人間達に棒で突かれたりひっくり返されたりしていると鳥達から聞いているのです。
でもカメさんはその事を一切口にしません。
どうしたの?と聞いても寂しそうな顔で笑うだけです。
魚の心はもやもやとして形作られる事のない不快感だけが増していきます。
何とかして元のカメさんに戻してあげたい。
思い出し笑いしたり美味しいものを考えたりして欲しい。


魚は毎日いつも通りカメに話しかけます。
「僕にはたくさん好きな物があるんだよ。青い空でしょ。時々出る虹も。いろいろな情報をくれる鳥達には感謝してるし、夜水に映った月も綺麗だよね。みんな僕の好きなものさ。だけどね一番好きなのはカメさん、君だよ。君だけがずっと僕の傍に居てくれるし何より僕の話を最後まで聞いてくれるから大好きな友達だよ」
するとそれを聞いたカメの目から大粒の涙が次から次へと流れました。好きという言葉が鍵だったようです。
何度も何度も頷きながら涙を流すカメと魚も一緒に抱き合ってわんわん泣きました。
その時初めてカメは気付いたのです。
自分のことをこんなにも心配してくれる大切な友達の存在を。どれだけこの大切な友達に心配をかけていたのかを。
それからのカメさんは徐々にいつもの表情になっていきました。
時々思い出し笑いをし、でれ~っと鼻の下を伸ばし、もぐもぐと口を動かしたりしています。
そんなカメをみて魚は一緒に笑ったり囃したてたりと愉しく毎日を過ごしました。
いじめた人間?どうやら鳥達が退治してくれたようです。 おしまい。




この作品は第1回ダイスストーリーのお題に基づいて創作されました。
9つのダイスを転がし、偶然出た9つのイラストをすべてつかって、ドリームライブラリ作家陣が作品を作り出します。