ダイスストーリー<第1回>

生まれ変わってみたところ by 勇智イソジーン真澄

むかし昔あるところに、小さな橋のかかった川がありました。
橋のたもとには、お父さんの木、お母さんの木、
そしてまだ小さな子どもの木が仲良く並んで立っています。
かめさんとさかなクンは、浅瀬で泳いでは陸に上がり
木陰で日光浴を楽しんでいました。


「ねえねえ、かめさん」
さかなクンがかめさんに声をかけました。
「なんだよ、さかなクン」
かめさんは甲羅から首を出しました。
「僕たち、いつまでもこの橋の下で、こうして一日を過ごしていていいのかな」
かめさんは、さかなクンの問いに驚きました。
だって、いままでそんなこと何も考えたことがなかったからです。
ずっとこのままで、百万年以上も生きて行くのだと思っていました。


「川はどこまで続いてるか知ってる?」
さかなクンは、また難しいことを言い始めました。
かめさんは万年も生きているのに知りませんでした。
そして知りたくなりました。
「行ってみよう」


かめさんとさかなクンは、川の流れに身を任せてどんどんどんどん
何メートルも何キロも進んで行きました。
いつしか雪が降り、花が咲き、太陽が真上に来て、枯葉が多くなり、
そんな季節の中を幾度も通り過ぎました。
「流されてるって楽チンだね」
さかなクンが暢気に言いました。
でも、かめさんはそうは思いませんでした。
「このままいつまでも流されていたら、もう俺は俺でなくなる」
そんな気がしはじめていました。


「あれ!?」
かめさんが大きな声を出しました。
何年、いや何十年なのか何百年なのか、数えきれない年月が経っていましたが、見覚えのある場所でした。
川はひとつの円の周りを廻り一本に繋がっていて、元の場所にもどったのです。


橋は朽ち果てていましたが、川辺に立っていた木の家族のお父さんが、向こう岸に倒れて新しい橋になっていました。
お母さんの木も、沢山の年輪を残して倒れていました。
でも、子どもの木は立派に成長した大人の木になっていました。


かめさんは陸に上がり、懐かしい景色を眺めました。
お父さんの木は、誰かの役に立つ事を信じて橋になることを決めていました。
居るべきところにいて、必要だと思われるものになる、それが信念でした。
かめさんは、時間が色んな事を変え、新しい風になることを甲羅に感じました。


さかなクンは何もせず流れていることが快感でなりません。
「もう一回行こうよ」
かめさんを誘いましたが、かめさんは首を縦に振りませんでした。


川の水が海の波のように揺れました。
地下に傷のような亀裂ができ、血が吹き出たように温かな水が噴き出しました。
さかなクンとかめさんは、お尻を押され、ぐんぐんと天に向かって押し上げられました。
くるくる回転し、目がまわりました。
何時間経ったのか、何日過ぎたのか、何百年かかったのか、
川を流れていた以上に時がたったようでした。


「誰だ、俺の背中を叩くやつは」
かめさんは怒って振り返ろうとしましたが動けません。
女の子の掌が甲羅をにぎっています。
左前足付近ををポンポンと叩かれました。
鍵の模様の絵を矢印が指していて、なにやら記号を押しています。
すると、四角い箱の中が明るくなりました。


首筋をくりくりなでられて、右前脚もポンポン、体中を触られ転がされて、お腹がくすぐったくなりました。
しばらくすると女の子は、手のひらサイズの細長いものを触り始めました。
耳に当てて何やら話しています。
「いまパソコンで送信したから見てね。あなたも早くスマホにしなさいよ」
そう言って耳に当てていたものを離しました。


どうも俺の前の四角い箱はパソコンというもので、俺はそれを操作する重要なマウスという物らしい。
耳当てはスマートフォンという携帯電話という代物みたいだ。
かめさんは、だんだん自分の置かれている状況を把握していました。


一方さかなクンは、宙に浮いていてビックリしていました。
「僕はなんでこんな高いところにいるんだ」
左右に離れた魚眼で下を見ると、黒い藻の上で揺れているようでした。
もう少し下を見て、またまたビックリです。
お母さんの木が、綺麗に磨かれて4本の足の上に横たわっているのです。
その上には、動かない僕たちが平らになって張り付いたものがありました。


「また! そんなものかぶって!」
黄色い声が、藻を怒鳴っていました。
「図鑑ばかり見てないで勉強しなさい!」


ギョギョッ、さかなクンは叱られた男の子の帽子になっていたのです。
さかなクンは相変わらず楽ちんな、自分では何もしなくてもいい、
この揺りかごのような甘い環境に満足していました。
いつか男の子が飽きて、捨てられるということを今は知りません。




この作品は第1回ダイスストーリーのお題に基づいて創作されました。
9つのダイスを転がし、偶然出た9つのイラストをすべてつかって、ドリームライブラリ作家陣が作品を作り出します。