「・・・ミコト様、・・木の・花・・火を・・・」
「何事だ、もう一度落ち着いて話してみろ!」
「木花咲耶姫(このはなさくやひめ)様が、産屋に火を放たれました」
日本書紀と古事記によると、天孫ニニギノミコトは大山津見命(おおやまつみのみこと)の娘である木花咲耶姫に一目惚れし、大山津見命の同意を得て結婚したものの、一緒に嫁がせようとした姉の岩長姫を送り返したことから大山津見命の怒りを買い、以後天皇家に寿命が生じたという。
一晩だけの契りで妊娠を告げた木花咲耶姫様に、ニニギノミコトは国津神(地上の神)の子供に違いないと決め付け、傷心の木花咲耶姫が貞節を証明するために取った行動が炎の中での出産だった。
「お腹の子が天津神(天の神)の子であれば無事に出産できるはず」と臨んだ出産で、木花咲耶姫は無事に3人の男子を産み落とし、そのうちの一人が神武天皇の祖父となったという。
その後、自分の醜さを嘆いて山に篭った姉の岩長姫に会うために東国に向かった木花咲耶姫様は、姉と再会した山が活火山で、火中で出産しても無事だった自分なら火の神を鎮めることが出来るかも知れないと、自ら火口に身を投じ噴火を鎮めたと伝えられる。
時は奈良時代。
「東国では今日も火の山の神が憤られているのか」
「はい、帝。勢いはとどまるところを知らず、民は逃げ惑っております」
「都は安泰なのにどうしたものか・・・。おや、木の花(桜)の香りか」
「そう言えば、その昔木花咲耶姫様が身を投じられて、火の神の怒りを鎮めたそうでございます」
「そうであった。直ぐに木花咲耶姫様をお祀り申し上げるのだ」
こうして、垂仁天皇3年の806年に建立されたのが、全国に1300あると言われる浅間神社の総本宮、富士山本宮浅間大社である。
一方現代の天界では。
「見て見て、咲耶ちゃん、下界が賑やかよ」
「何の騒ぎかしら、岩長お姉様」
「何でも、あなたが噴火を鎮めた山が世界遺産とかに登録されたらしいわ」
「奈良時代にあの山また噴火しちゃって、神として祀られちゃったのよね、私」
「安産の神とか母乳の代わりにお酒を飲ませたとかでお酒の神様にまでなってるわ、ふふっ」
「お姉様を実家に帰して私の不貞を疑ったニニギノミコトを祀る神社は少ないのにね」
「あなたのお陰でお父様や私を祀る神社まであるから有難いわ」
「でも、もう火山の神のご機嫌取るの嫌になってきちゃった」
「そんなこと言わないで咲耶ちゃん、スーパーヒロインに休息はないのよ」
「分かったわお姉様、もう少し頑張ってみるわ」
なんて話をしてくれていればいいのだが、と考える今日この頃だ。