新作噺(三題話作品:くも かき氷 背後)

打ち上げ花火  by 網焼亭田楽



いつものバカバカしいよたろう話でございます。


「おい、よたろう!」
「なんでございましょう、だんな様」
「今日はひとつ、おめえになぞかけってえものを教えてやろうじゃねえか」
「なぞかけですか?」
「どうした、嫌いかい」
「おいらはどちらかと言えば、とろろの方が好物なんですが」
「なんでい、そりゃあ」
「だから、山かけの方が」
「そばやうどんの話じゃねえんだ。もっと、こう頭を使った高尚なお遊びだ」
「胡椒よりは一味にしておくんなさい。七味はダメです。一味です、一味」
「なんだい。変なこだわりがあるじゃねえか。でも、香辛料の話じゃねよ」
「ああ、良かった。おいら、ほとんどNHKは見ないんです」
「受信料の話でもねえよ」
「では、いったい何のお話で?」
「わかんないやつだねえ。だから、なぞかけだって言ってるじゃねえか。よたろうも聞いたことがあるだろう。なになにとかけて、なんととく、そのこころは、っていうあれだよ」
「だんな様も人が悪い。それなら、知ってます。知ってるどころか、あたいの得意分野です」
「おいおい、本当かい。じゃ、ひとつ作ってみてくれ」
「わかりました。では、お題を頂戴しとうございます」
「そうだな。季節も暑くなってきたから、夏らしいものでどうだい」
「もちろん、なんでもOKです」
「じゃあ、いくぞ。打ち上げ花火なんてどうだい」
「なんですって?」
「いや、だから、打ち上げ花火だよ。ドーン、ドーンって、夏になるとそこいらじゅうで上がるだろう」
「音は聞いたことがありますが、おいら一度も見せてもらったことがありません」
「おいおい。それじゃ、私が連れていってないことを責めてるみたいじゃないか」
「とんでもございません、だんな 様。みんなは見に行ったことがあるのに、あたいだけは見たことがないって言ってるだけでございます」
「ほらほら、それだよ、それ。やっぱり根にもっているんじゃないか。わかったよ、わかった。今年は隅田川の花火を見に行こうじゃないか」
「本当ですか、だんな様」
「ああ、連れてってやるさ。ただし、気の利いたなぞかけが作れたらだぞ」
「任してください、だんな様。ええと、お題はなんでしたっけ」
「もう、忘れちまったのかい。打ち上げ花火だよ」
「そうでした、そうでした。なぞかけなら任してください。打ち上げ花火とかけまして」
「来たね来たね。打ち上げ花火とかけまして」
「ジョージとときます」
「なんだい、ジョージってのは。おまえ、ほんとに知ってるのかい、なぞかけ。まあいいや。打ち上げ花火とかけて、ジョージととく。そのこころは」
「柳に似合います」
「おや、よたろう。なかなかいいじゃねえか。柳ジョージと、打ち上げ花火の風景が柳の景色によく似合うってことだよね。こりゃたいしたもんだ」
「これぐらい、朝飯前でございます」
「じゃ、もういっちょういってみよう」
「そろそろ、おやめになった方が良いかと思いますが」
「なに言ってんだよ。曇った顔しやがって。まだ、始めたばかりじゃねえか。次いくぞ。お次のお題は、やかんだ、やかん」
「ああ、それはやっていなかったなあ」
「なにブツブツ言ってるんだよ」
「いえ。実は、昨日なぞかけのテレビを見てまして、季節にちなんだお題でいくつかやってたんです」
「なんだい。それで、打ち上げ花火はあったけど、やかんはなかったってことかい」
「はいご明答!」
「なんだい。どおりでうますぎると思ったよ。これじゃあ、打ち上げ花火には連れてけねえな」
「そんな、殺生な。連れてってくださいよ。あたいはだんな様の言うことなら何でも聞きますから」
「そうかい。私の言うこと、なんでも聞くのかい?」
「もちろんですとも。だんな様のことが大好きなんです」
「おいおい、気持ち悪いねえ」「だんな様の言う言葉には、いちいち感心しているんです」
「なんか、いちいちって使い方、それで合ってるんかい」
「とにかく、それほどだんな様の言葉に惚れ込んでいるってことですよ」
「そこまで言われちゃ、連れて行かないわけにもいかないなあ」
「だんな様。打ち上げ花火と言えば、屋台も出ていますよね」
「なんだい、よたろう。おまえのお目当ては、さては屋台だったんだな。まあ、いいや。それで、何が食べたいんだい。イカ焼きかい? 串カツかい?」
「おいらが食べたいのは、赤やら緑やらの甘いのがかかっている、冷た~いやつですよ」
「なんだ、氷が食べたかったんかい。よし、じゃあ、かき氷をお題に、綺麗ななぞかけを言えたら食べさせてやろうじゃねえか」
「本当ですか、だんな様」
「おう、男に二言はねえ」
「良かった、昨日テレビを見ておいて」
「何か言ったかい?」
「何でもありません、だんな様」
「そら、いけ。やれ、いけ。どんと、いけ。早くしねえと食べさせてやらねえぞ」
「わかりました、だんな様。それでは、まいります。かき氷とかけまして」
「いいぞ、いいぞ。かき氷とかけて何ととく」
「かき氷とかけまして、だんな様の言葉とときます」
「おや、すんなりと出て来るところなんぞ、なんだか怪しいな。まあ、いいや、言ってみな。そのこころは?」
「イチゴイチゴ(一語一語)にメロンメロン(メロメロ)です」


毎度バカバカしい、よたろう話でございました。