小説(三題話作品: ひつじ 雪 ◆流行語◆)

十二支プラスニャン by やぐちけいこ

 ここは天界の一角。大きな部屋の片隅に動物たちが円になって座っている。
「今年もやってきましたなあ、ウサギどん。ささ、お酒をどうぞ」
 「ありがたい。しかしお酌をしている場合ではないぞ、ネズミ殿。今年もやつが騒いでおるではないか。もとはと言えばお主が原因ではないか」
 大昔、神様に元旦の挨拶へ出向いた動物十二匹が勢ぞろいし円陣をなし酒を酌み交わしていた。円の中心にはぎゃあぎゃあと騒いでいる動物がいる。毎年大晦日になるとこうやって皆で酒を酌み交わし円の中心で騒いでいる動物を宥めているのだ。その役目はその年の干支と次の年の干支である。よって今回はウマとヒツジが騒いでいる動物、ネコの相手をしている。自分が十二支に加われなかった悔しさを未だにこの時期になると騒いでいるのである。その相手をするのも十二支で順番にこなしているのが定例となった。ただネズミの順番になる二年間はネコも一層騒ぐそうな。
 幸い今年はウマとヒツジ。大晦日と元旦も無事に過ごすことが出来るだろう。
 温厚なヒツジは根気よくネコの愚痴に付き合い酒を勧めている。体よく酔いつぶす作戦に出たらしい。
 ネコが騒ぐのももっともだ。ネズミに一日遅い日を教えられ出向いたら時はすでに遅し。
まあ、今思えば神様のお触れを自分で確認しなかったのも悪いのだ。そんなことネコも解っている。解っていても悔しいのだ。ネズミに騙されたことではなく自分の不甲斐なさがひたすら悔しいのだ。だから毎年騒ぐのを許してくれる十二支に甘えてしまっている。それも今年で終わりにしようと思っている。いったいどれだけの年月を突き合わせてしまったのだろう。年末年始は干支たちも引き継ぎで忙しいのにわざわざ全員が集まり自分のために時間を使ってくれているのだ。だから今年で終わりにしよう。
 「ヒツジさん、ウマさんごめんね。もうこうやって騒ぐのをやめる。本当は分かってるんだ。僕が騒ぐ資格が無いことくらい解ってるんだ。他のみんなも今までありがとう。もう騒いで邪魔しないから」ネコが神妙に話すものだから十二支たちはポカンとしている。中には酒をこぼしているのにも気づかない者もいる。
 「ネコ殿がおかしくなっておる。雪でも降るんじゃないのか?」ウマがぽつりとこぼす。
 「うむ。確かにおかしいの。あれだけ騒いでおって急にどうしたものか。熱でもあるのか」誰かがそう呟く。
 「毎年ネコ殿が騒いでいるのを酒の肴にしておるというにいったい何があったのやら」
 次々に聞こえてくるのは何とも失礼なことばかり。これにはネコも怒り出す。
 「何だとお。僕はみんなに迷惑かと思って言っているのにひどいじゃないか。ひどいひどいよおぉぉぉ。うわあぁん」再びネコが騒ぎだした。
 「そうそう、それよそれ。そうやってありりのままに騒いでおるのがネコ殿じゃ。これが無いと年も越せんし年も明けんからの」
 十二支達は盛大に笑った。たまたま神様には認められなかったネコだが十二支達には認められているようだ。
 「ヒツジ殿。二千十五年をよろしく」
 「承知した。ウマ殿、一年間お疲れさまでした」
 どうやら引き継ぎも無事に終えたようだ。後は真ん中で騒いでいるネコを肴に酒を酌み交わすのみ。
 気づけばネコは酒を飲み騒ぎ疲れたのか眠っている。十二支達はその寝顔も肴に酒を酌み交わす。
 良い一年が訪れますようにと願いながら。
                       おしまい