Mirubaの カクテル小説 辞典

 

『Zaza』の恋 by Miruba
[ZAZA]

私エミー、よろしくね。
私のコレージュ(中学校)リセ(高校)の時の友人にイザベルという女の子がいたの。
美人と言うのではなかったけれどエキゾチックな顔立ちで男の子にもてる女の子だった。

付き合っている彼氏をイザベルに盗られたと、涙の女の子が何人もいて、いつからかザザと言うあだ名がついたの。
でもザザはそのあだ名が気に入っているようだった。
それと言うのもザザのひーひーおばあちゃん、曽祖母っていうの?その女性が昔劇作家と知り合いで、若い頃のひーひーおばあちゃんがモデルになった「舞姫Zaza」が評判になって、その後ヨーロッパやアメリカでも映画になったというお話をひーおばあちゃんもおばあちゃんもお母さんも自慢していたからってわけ。


ザザのひーひ―おばあちゃんは歌も踊りも上手だったそうで、写真も残っていたらしいわ。美人だったのですって。
汽車に乗り遅れたブルジョワの男がふと入ったホールで歌い踊る女性に恋をして二人はその夜のうちに恋人になって素敵なアパートで暮らし始めるけれど出張にはZazaを連れて行かない。変だと思うZaza、なんとそのブルジョワには家族がいた。で、結局Zazaは舞姫に戻る、という「舞姫Zaza」のお話はよくありそうなちょっと複雑なお話。


ザザが男の子たちを誘ったことは実はほとんどなかったと思うわ。
本当に好きだったのはたった一人。
コレージュ(中学校)の時の担任だったシモン先生。背が高くて素敵だった。
でも、どんなにザザが恋のビームを出しても、シモン先生はいつもこう言った。
「ザザのことはとっても好きだよ、ただそれは生徒として、人間として好きと言う意味だ。生徒と付き合うのは禁止されているからね」

フランス人って大抵のひとは恋愛にはおおらかだけれど、真面目も度を超すほどの人がたまにいる。
ザザはたくさんの男の子の心を虜にしたけれど、自分の意中の恋には手が届かないままだった。


私エミーとザザは時々一緒に遊んだけれど、あの日のことは忘れない。
ユニヴェルシテ(大学)に通い始めて2年が経った頃、オペラ座近くの映画館で映画を見て、その通り向かいのカフェに入ったのよ。
そこのカウンターでカクテルを飲んでいる男性がいた。シモン先生だったの。
コレージュを出てから5年は過ぎていたから懐かしくて話が弾んだわ。

先生の飲んでいるカクテルの色が綺麗だったから、注文を聞きに来たウエイターに「これと同じものを頂戴」と言ったら、ウエイターが「マドモワゼルにZAZA2杯!」とバーテンダーに声をかけたのよ。

「え!? ZAZAってなまえのカクテルってあるの?」
私とザザが顔を見合わせて先生の方を見たら、シモン先生はもう身の置き所がないほどの真っ赤な顔をしてモジモジしてた。
先生・・可愛い。
ザザの目にハートマークがくっきり。
俄然張り切って先生に再度アタックしていたわ。
ZAZAカクテルなんか飲んでザザとの思い出に浸っているなんて、その心はミエミエなのにここでも先生は真面目の頑固者だった。「定年で先生を辞めないかぎり・・」とかなんとか、ほんと、アーユー真面目人間って周りがイライラしちゃうわね。


それがね、つい最近ザザからメールが来たの。「エミー、私シモン先生と結婚するよ」って
やったねザザ!
先生は学校を辞めて、言語学の研究者になったのでやっとザザと一緒になれるって、ザザを訪ねてきたのですって。「20も年上のおじさんと一緒になるなんて無理だよね」って恥ずかしそうに言ったそうよ。
ザザは「こちらこそもう30を過ぎちゃったけれどいいですか?」と言いながら先生に思いっきり抱きついたのですって。
ザザがどれほど待ち望んだことか、20年待った恋が実るのだもの、嬉しいわよね。

でも、先生が定年まで学校にいなくて良かったわ。現在フランスの定年は60才、もし年金が満額貰えない場合は70歳まで働くことになっているから、下手したらシモン先生はずーっと先生のままで、生徒だったザザと結婚なんて出来なかったでしょうからね。

そうそう、もう一つ不思議だったのは、「舞姫Zaza」の作家の一人がCharles Simon、英語読みだとチャールズ・サイモンだけれどフランス語ではシャルル・シモンだったこと。

  

ザザ [ZAZA]

 


▶【ジンベース】
コクと深みのある香りが特徴。このレシピにオレンジジュースを加えるレシピもあります。ともに食前酒にはぴったり。考案したのは、パリのル・グランホテルのフランク.P.ニューマン氏。最初はデュボネではなくベルモットを使ったとか。カクテルの名称は、1899年劇場での公演がヒットした『舞姫Zaza』からきています。フランス人劇作家・ピエールバートンと、官僚で作家のシャルル・シモンとのコラボ作品で、この作品は悪評を買いながらも、そのスキャンダラスな内容がウケるのか、何度もリメイク公演され、かつ何度も映画化もされました。
 
 
 ▶レシピ
デュボネ・・・・・・・30ml
ドライ・ジン・・・・・30ml
アンゴスチュラ・ビターズ・・1dash
 
ミキシング・グラスで、ドライ・ジン、デュボネ(アペリティフワインの1種)、アンゴスチュラ・ビターズ(苦みの強い酒)をステアしてグラスに注ぎます。