その15 「初恋」違い

水曜日恒例、韓国人主婦4人の皆さんへの日本語クラスでのこと。
「初デートの場所はどこでしたか?」の質問に「チャングムの誓い」の主人公のような物腰のギョンヒさんがいつものようにおっとりと
「私の初恋は、勿論今の夫ではなく~・・・」
と話し始めたので
「いえいえ、そりゃそうでしょうけど、初恋ではなく初めてデートした人と行った場所ですよ」
と言った途端、主婦の皆さんの目が一斉に私に向けられたので
「えっ?私、今何か間違ったこと言いました?」
と、こちらの方が逆に驚いてしまった。
 
韓国に住み始めて5年目にして「初恋」が「初めて付き合った人」だと知った瞬間だった。
同時に、改めて思い出した2つのエピソードがある。
 
私が日本語を教え始めてから出会った韓国人の中で、ベスト3に入る程の努力家のジンソプさん(男性)の初恋は、大学卒業後の兵役時代だったと聞いていた。
初恋にしては随分遅いなあとは思ったものの、小学校から家の農作業を手伝わされたり、大学でも講義以外は図書館に篭っていたそうだから、よほど奥手だったのだろうと勝手に納得していた。
「私の初恋は今でも鎮海(チンへ)に居るんです」
と時々遠い目をして言うので
「『初恋』じゃなくて『初恋の人』ですよ」
と何度訂正しても直らないままだった。
 
個人授業で日本語を教えていた製薬会社のイ副会長さんは、今年で60歳の誕生日を迎えられるが、24歳で結婚したとき3歳年下の奥様と
「お互い初恋ですね」という合意の下で結婚したそうだ。
副会長さんご本人の口から
「大学時代に何人かの女性に好意を寄せていた」
と聞いていたこともあり、よくもまあ、そんなバレバレな嘘が言えるものだなあ、と半ば呆れていた。
 
しかし「初恋」が「初めて付き合った人」なら、二人のエピソードが韓国では特例とは言えない訳だ。
更にこの理論を持ってすると、初恋までに幾多の失恋経験があったとしてもカウントされないというのも韓国人らしい。
 
個人的には「恋人」が韓国語では「愛人」、「サービス満点の店」が「多情な店」に匹敵するくらいの衝撃だった。


韓国映画『建築学概論』のポスター。キャッチコピーは「私たちは皆誰かの初恋だった」