小説(三題話作品: れいわ コーヒー 夏休み)
韓国の死刑制度復活論が再燃 by 御美子
この事件を知ったのは6月12日水曜日の夜だった。
個人授業で日本語を学ぶ物静かな会社員、ヨンジンさんが珍しく興奮した口調で「ここ1週間、韓国は、この事件で持ちきりです」と事件の概要を教えてくれた。
ヨンジンさんの話の核心部分を要約すると、2019年5月25日済州島(チェジュド)で被疑者A(女36)が2年前に離婚した元夫を子供に会わせるという口実で呼び出し殺して死体をバラバラにし、海に捨てた。
殺人現場となったペンションのオーナーがかき入れ時の夏休み前に悪い評判がたっては大変と血痕が残っていた部屋を業者に依頼して掃除し髪の毛一本の証拠も無いことが事件をさらに複雑にしている。
加えて、現夫の息子が約3カ月前に不審死した際、当時は不問に付されたものの「そう言えば、Aに出されたコーヒーを飲んだ後に強い眠気に襲われた」という現夫の新たな証言から再調査になりそうだ。と言うのだった。
韓国では被疑者が公開されることは滅多にないが殺された真面目で子煩悩な元夫への同情からか被疑者の本名と顔がいち早く公開されたことも韓国民の関心に火を付けた模様だ。
現在のところ、被疑者Aは犯行手順や動機について何も語っていない。しかしながら、彼女が凶行に至る背景はメディアの取材で少しずつ明らかになりつつある。
以下はニュース記事から分かったことに韓国人の国民性を加味し、100%創作した被疑者Aの心の声である。
「なぜ、私がこんな目に遭わなければならないの。
元はと言えば、あの男のせいじゃない。
あの男が頼むから離婚してくれと言ったから
親権は私のものという条件で別れてやったのよ。
それを今更、子供に会いたいとか
それを裁判所に訴えて
子供に会わせるように命令させるなんて。
私を無視したら、どうなるか忘れたのかしら。
毎月欠かさず養育費を払うために
質素な生活をしてアルバイトまでしたとか
あの男の親兄弟は証言してるらしいけど
私がしつこく督促して、やっと払わせてたのよ。
結婚する時に私の父が買ってくれたマンションを
勝手に義父の名義に書き換えて
言い訳が親孝行したいからなんて呆れたわ。
あの男とその家族に息子は任せられない。
私が一人で守り育てるのよ。
その為だったら、何でもする。
3カ月前だって、現夫の子供に薬を飲ませ
自然に窒息死したように見せかけるのに
どれだけ苦労したことか。
夫の連れ子のせいで
私の可愛い息子が嫌な思いをしたらどうするの。
消防士である現夫の少ない稼ぎでは
男の子が二人もいたら
まともな教育なんてできないじゃない。
警察は元夫の死体の一部でも見つけようと
懸賞金まで出して探そうとしているみたいだけど
まず、見つからないわね。
私が怨念を込めて細かく切り刻んだから
今頃、食欲旺盛な魚たちか隠れ岩ガニが
全部処理してくれてると思うわ」
※2019年6月23日現在、被疑者Aは、殺人・死体損壊・死体遺棄の疑いで取り調べを受けている。青瓦台(韓国大統領官邸)には、Aを死刑にするようにとの国民請願が20万人に達しようとしており、死刑制度復活の議論が再燃する事態となっている。
<この作品はフィクションです>