小説(三題話作品: ○活 ねずみ Try)

人間算 by 夢野来人

 俺は動物の行動を観察することにより人間の行動を理解しようとする研究をしている。
これでも一応、部活なのだ。比較心理学の研究をする部活だ。つまり、あれである。手っ取り早く言えば、ネズミの行動を観察して人間の行動を理解しようとしているのだ。
ネズミを閉ざされた空間に閉じ込めた時の行動を研究することにより、人間が閉ざされた空間に閉じ込められた時の行動を予測するとかだ。
そんなことを聞くと何だか物騒な研究に思えるが、そうではない。その研究をすることにより緊急時の人間の行動を理解できれば、将来ビルの中の非常口の設置場所はここにした方が逃げやすいとか、巨大迷路やお化け屋敷を作る時にはなるべく行動しやすい方向は行き止まりにしておくとか、活用範囲は広いのだ。
ただし、俺の研究をバカにするやつもいる。ネズミの限られた時の行動を研究したところで、そこからわかることはネズミが限られた時にどう行動するかということだけだ。人間に通用しないどころか、そんな実験では自然な状態のネズミのことさえわからないなどとほざくのだ。
でも、人間だって所詮は動物だ。ネズミの行動と根本は同じはずである。例えば、空腹時に食べ物を置いておけば、ネズミも人間も食べ物に近寄っていく。
成体の異性同士を限られた空間に閉じ込めておけば、やがて交尾をしだす者がでてくる。これも同じだ。
そして、オス1匹にメス2匹を入れた場合はメスが2匹とも妊娠する。プチハーレムと言ったところだ。
しかし、メス1匹にオス2匹を入れておくと、オスは仲良くメスと交互に交尾をすれば良さそうなものだが、実際にはオス同士が喧嘩をして勝った者がメスへの交尾挑戦権を得るという恋愛システムのようだ。
そこで、オス1匹、メス1匹を限られた空間に閉じ込めておくと、いったいどれぐらいまで増えるかというのが最近の興味の的である。
これが、すぐに結構増えるのだ。まるでネズミ算式に増えていく。
人間もそんなに増えるものかどうか試してみたくなってくる。よし、やってみよう。限られた空間はここが良い。
さあ、地球という限られた空間で人口何人まで増えるか、レッツトライだ!