(三題話作品: うし スマート つばき)

まちがいさがし by やぐちけいこ 



遅くなるからお帰りと口癖のように言っていた
私の帰り道を心配するのはわかるけどまだ大丈夫

今しかないと思うのは多分間違っていない
少しくらい無理したってここに来るから

片道100キロの道のりを高速で夕日に向かって帰る時
明日も今日と同じに過ごせますようにと願ってた

台風一過の青空を部屋から一緒にみて感動してた
あれだけの美しい空は今まで見たことなかった
雲の形を羊や犬に例え最後に言ったウシという言葉に
笑ったあの青空はもう見えない

生きることの方が辛いのだからもう楽になったらという
死神に背を向けて生の道を選んだのは間違いではなかったのか

思うように動けない自分を持て余したあなたの我儘は時に
私の精神を疲れさせる
もっとスマートに対応したいのにできないのは似た者同士の不器用

遅くなるからお帰りと口癖のように言っていた
私の帰り道を心配するのは分かるけどまだ大丈夫

だんだん口数も少なくなり眠るように逝ったあなたと過ごした
9か月は心の準備期間をくれたものだったのかな

季節がめぐり椿の花が咲くころあの時よりも大きくなる心の穴も
いずれ癒されていくのだろう

遅くなるからお帰りと口癖のように言っていた
あなたは幸せだったと信じてる