新作噺(三題話作品: うし スマート つばき)

打ち上げ花火 by 網焼亭田楽


 
毎度バカバカしいお笑いでございます。
 
まあ、新年が始まったわけですが、去年はと言えば、コロナに始まりコロナで終わる、そんな厄介な年でございました。
そんななか、こうしてまだ生きている自分に感謝したいと思います。がんばれ自分(笑)
 
さて、コロナ太りなんて言葉も生まれたように、巣ごもり生活で動かないうえ、食べるものだけは今まで以上に食べる時間があるため、スマートな体型を維持するのは至難のわざのようでございます。
ねえ、そこのあなた。私には関係ない話だわなんてお顔をされておりますが、コロナ太りじゃなきゃ、それはただの……
 
ま、それはさておきまして(笑)
去年残念だったなあとつくづく思いましたのは、打ち上げ花火の相次ぐ中止でございました。
本当でしたら夏の夜空に咲く大輪の花に、
「たまや〜」
「ポチや〜」
なんてかけ声がかかり、えっ? ポチやはかからない。いえいえ、犬派の方だっていらっしゃるのです。 
そんな賑やかなお祭りになっていたのでしょうが、密を避けなければならないということで、花火大会はほとんど中止になってしまいました。
 
花火大会が中止になると、一番困るのは花火職人さんでございます。もちろん一年かけて作ってきた花火が使えないとなれば、サラリーマンで言えば一年分の所得がないと同じこと。その辛さたるや想像にかたくありませんが、それ以上に自分が丹精込めて作ったものを披露できない悔しさというのも当然おありのことと存じます。
 
今日はそんな花火職人さんの話でございます。
 
「おい、はっつぁんよ」
「何だい、くまさん」
「こうも疫病が流行ってきたんじゃ、おちおち仕事もしちゃいられねえな」
「くまさん、何言ってんだよ。もともと仕事なんてそんなにありゃしないだろ」
「まあ、そう言いなさんな。ところで、今年の花火大会が中止になったって話じゃないか。あいつ、大丈夫かな」
「誰だい、あいつって」
「ほら、去年ひょんなことから知り合った、あの花火職人さんだよ」
「ああ。そう言えば、何でも新作の花火を作るんだって意気込んでたよなあ」
「そうそう。その新作ができたら、好きなあの子にプロポーズをするんだって張り切ってたもんなあ」
「それはさぞかしがっかりしていることだろうな。よし、行くか」
「どこへ?」
「だから、その花火職人さんのとこだよ」
「誰が?」
「俺たちだよ」
「なぜ?」
「励ましてやるために決まってんだろう」
「どうやって?」
「だから、酒でも持って行ってやって、一緒に飲みながら励ましてやろうってんじゃねえか」
「それなら、行く」
「なんだい、くまさん。ただ、酒が飲みたいだけじゃねえのか」
「そんなことはねえさ。あの子とどうなったかも知っておきてえ」
「そうだな。花火大会がないんじゃプロポーズもできねえもんな。ところで、あの子の名前、何て言ったかな」
「ええと、確か、花の名前だったような」
「そうそう、花の名前だったよな。でも、出てこないな。まあ、いいや。そんなことより、花火の新作はできたのかな?」
「それも聞きに行こうじゃねえか」
 
そんなこんなで、はっつぁんとくまさんは、花火職人さんのところへやってまいりました。
 
「ごめんよ。花火職人さん、いるかい」
「おお、これはこれは、はっつぁんにくまさん。ようこそおいでくださった。して、今日は何用で?」
「いやあ、まあ新年のご挨拶ってところだ。年も明けてめでてえから、おめえさんと一緒に飲もうと思って、こうして酒持ってやって来たというわけだ」
「それはそれはかたじけない。拙者も去年から手がけていた花火の新作がやっとできたところで、はっつあんとくまさんにも見てもらおうと思っていたところでござった」
「本当は、あの子に見てもらいたんだろう」
「そ、それはそうでござるが…」
「なんでい、なんでい。呼んでくればいいじゃねえか」
「いや、今は時代も進んでいて、拙者の作った花火の情報を入力すると、どのような花火になるのかということをシミュレーションしてくれるソフトがあるのでござる」
「へえ。じゃ、遠く離れたとこにいても、その動画を見ることができるってことかい」
「はい。その通りでござる。ちょうど今から、その動画を見ようとしていたところで」
「なんでえなんでえ。そんなら、なおさらあの子にも見せてやらなきゃならねえだろ」
「実は、今リモートでつなげようとしていたところで」
「さすが準備がいいじゃねえか。じゃあ、さっそく準備しておくれ。おいらたちは、酒とつまみの準備をするからさ」
「かたじけのうござる」
 
準備も整い、あの子ともリモートでつながり、画面にはいよいよ花火職人さんの新作の花火が打ち上がるところでございます。
 
「上手く打ち上がるといいなあ」
「ぱあっと開くところが見てえなあ」
「上手く大輪の花が咲くとよろしいのでござるが……」
「どんな花火なのかしら?」
 
四人が見つめる中、画面の中でシミュレーション花火が打ち上がっていった。
 
ヒュルヒュルヒュル〜、ドーン!
 
「おお!」
「これは見事!」
「これが拙者の気持ちです」
「わあ、嬉しい。もちろんOKよ」
 
画面の中には、彼女の名前である『つばき』の形をした大輪の花が見事に咲き誇っていて、その下で仕掛け花火の文字がくっきりと浮き上がっておりました。
 
『拙者と結婚してくだされ』
 
二人はめでたくゴールイン。
こうして、明るく新年の幕は開いたのでございます。
 
皆さまの今年のご健康を、心よりお祈りいたしております。お後がよろしいようで……