網焼亭田楽の新作噺

「三方一両損」   by 網焼亭田楽

「皆さん、三方一両損って知ってる人いますか」
「はい、先生」
「珍しいな。よたろうくん知ってるのかい」
「はい。ここに、八っつぁんと熊さんとおいらがいます」
「ほうほう、それで」
「先生が問題を出して、答えられた人に3万円の懸賞をかけたとします」
「面白くなってきたね。それで」
「あんまり簡単な問題だったんで、八っつぁんも熊さんも答えがわかっちゃった」
「よたろうくん。きみはわからなかったのかい」
「自慢じゃねえが、おいらどんな簡単な問題だって解けたためしがねえ」
「それは、自慢になりませんね。では、賞金の3万円は八っつぁんか熊さんのものだね」
「ところが、八っつぁんも熊さんも自分が答えるってきかねえ。醜い争いがおきちまった」
「それで、どうしたんだい」
「3万円を二人でわけるわけにもいかねえから」
「1万5千円ずつじゃダメなのかい」
「そんなこと言ったって、答えが当たっているかどうかわからねえ」
「じゃあ、どうするんだい」
「二人には、5千円ずつくれてやる」
「すると2万円余ってしまうね」
「それはおいらがちょうだいする」
「なんだい。それじゃ、ボロ儲けじゃないか」
「八っつぁんも熊さんも、仲良く分けてれば1万5千円ずつもらえたのにバカなことをしたもんだ」
「確かに1万円ずつ損をしてるな。でも、よたろうくん。きみは2万円も得をしたんじゃないのかい」
「おいら頭は弱いが、腕っぷしには自信がある。もし、どちらかが答えて3万円の賞金を手にしたときには、ぶんどってやるつもりだったんだ。ところがどうだい。今、おいらの手元には2万円しかない。ああ、1万円損したなってことで、三方一両損めでたく解決」
「そんな話だったっけ…」