ショートショート

エコな社会  by 夢野来人

人類はエコをどんどん推し進めていた。
始めはエネルギーの分野でエコが重視され、電気の無駄遣いは徹底的に排除された。


「なんだか、黒い屋根の家ばかりが増えてきたのう」


全家庭に太陽光発電が取り付けられ、電気は自給自足が基本となった。余った電気は巨大蓄電池に溜められ、曇りや雨の日に利用された。


「近頃の池は、水ではなく電力を蓄えるのじゃな」


そのうち、エコは石油関係の無駄遣いも一掃した。最近では、リッター100キロ走るエコカーも珍しくはない。


「なんと、ボディはベニヤ、天井はトタン板でできておるのか。あれで、車両重量は軽くなるのじゃろうか」


着るものも、ずいぶん変わったものだ。
夏にいらないネクタイは冬にだって必要ないだろうということで廃止されたのを始め、終わりの頃の服は衝撃的だった。
大量生産がコストも安いし差別感も与えないということで、地球人類服なるものが登場したりもした。


「統一感はあるが、個性はどこへ行ってしまったのじゃろう」


そして、エコはついに進化にまで影響を及ぼし始めたのだ。
耳はいるのか。鼻は本当に必要か。目だって怪しいものだと侃々諤々の論議が起きたりもした。


「のっぺらぼうは、意外と人類の進化した顔かもしれぬな」


人類は、最後には生殖機能すら疑い始めていた。
そもそも繁殖などというものは個体が滅ぶから必要なのであって、不老不死なら生殖活動も必要ないじゃないかという考えが一般的になっていった。


「なるほど、なるほど、一理あるわい」


こうして、人類はどんどんエコを推し進めていった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「この星では、養殖の技術が発達していたようじゃな。こんなに新鮮な食べ物が、たくさんプカプカ浮かんでいるじゃないか」
「そうですね。この不思議な培養液のおかげで、腐らずピチピチしたままですね」
「ああ、まるで不老不死じゃな」


そう言うと、宇宙人は人類の脳みそを美味そうにほおばった・・・