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伝説のドラゴン by 夢野来人

龍ケ村の九頭龍池には、一匹のドラゴンが住んでいた。その名が示すとおり、ドラゴンの頭は九つあり、しっぽは三本に分かれていて、前足の指は四本ずつ、後ろ足の指は六本ずつあった。人呼んで四六(しろく)のドラゴンである。
ここで説明しておかなければならないことがある。それは、ドラゴンの九つの頭についてである。
一つめの頭は、食料を補給するためのものである。したがって、口が大きいという特徴がある。
二つめの頭は、物を考えるためのものである。他の頭に比べて一段と大きいのは、中に脳みそが入っているからである。他の頭に脳みそはない。ゆえに、この頭は司令塔でもあるのだ。
三つめの頭は、物音を聞くための頭である。よって、耳が異様にでかい。どちらかと言えば、ゾウさんの耳に似ている。四つめの頭は、暗闇でもよく見える目が付いている。昼間は、瞳孔の部分が細く線のようになっている。ほとんどネコの目だ。
五つめの頭には、なんでも嗅ぎ分けることのできる鼻が付いている。その鼻はたいてい湿っており、乾いているときは体調が悪いという。誰が見てもイヌの鼻だ。
六つめの頭には、髪の毛がはえている。ドラゴンは不器用なので、クシを使わなくてもいいように天然パーマがかかっている。
七つめの頭だけは器用である。いつもボールを頭に乗せ、オウッ、オウッと言っている。
八つめの頭の上には、麦わら帽子が乗っている。もちろん、日射病にかからないためだ。
そして、九つめの頭には肛門が付いている。理由は、あえて言うまでもない。
そんなドラゴンが、いつものように昼寝をしていた。そこへハエが飛んで来て、迷うことなく九つめの頭にとまった。
ふたたび、説明しておかなければならないことがある。それは、三本のしっぽについてである。
一本めのしっぽは、泳ぐときに方向を定めるためについている。いわゆる舵(かじ)の役割をもっている。
二本めのしっぽは、高速回転をすることができる。言うなればスクリューである。
三本めのしっぽ、これこそがハエをたたく役目をもっているのだ。言ってみればハエたたきである。
ドラゴンは、三本めのしっぽを使って九つめの頭にとまっているハエをたたき落とし、四本ずつの指が付いている前足で空中高く放り投げ、六本ずつの指が付いている後ろ足で蹴り上げた。
ここで、前足と後ろ足の指について一本ずつ説明しておかなければならない。いや、その前にどうしても説明しておきたいことがある。それは、ドラゴンの身体全体をおおっているきらびやかなウロコについてである。ウロコは全部で三千枚。
一枚めのウロコは・・・