ショートショート

後継者   by 夢野来人

「そりゃ、やる気があるのが一番だろう」
「しかし、それでは能力の高いほうのやる気がなくなる」
「じゃあ、能力の高いほうにしたら」
「すると、やる気のあるやつのやる気がなくなり、ただの能力のない部下になってしまう」
「じゃどうしたら、いいんだ」
「うん。じつはこの2人の候補者は、男性と女性なんだ」
「それで?」
「この2人を結婚させてしまうんだ」
「え、下手をすると女性の方は辞めてしまうのでは?」
「それでもかまわない」
「なるほど、合法的な退職勧告というわけだな」
「そんなつもりもない。実はもっと長い目で考えているんだ。遠大な計画だ」
「いったいどういうことだい」
「20年、30年ごしの計画さ。2人のいいところを併せ持った子供を後継者にしようと思うんだ」
「なるほど、さすが社長。素晴らしい計画だ」
   ◆  ◆  ◆
こうして30年後、遠大な計画が成就するときがきた。新社長が誕生した。子供は、見事に両親の気質を受け継いで育っていた。新社長は、能力がなくて、やる気もなかったのだ。