創作(三題話作品:神 とり 大統領)

甘い汁 by 御美子

最初にお断りしておきます。以下の文章の会話部分はフィクション、その他の部分はウィキペディア・ハンギョレ新聞・朝鮮日報などで発表された情報を基にしています。


今から約20年前の話である。

「お姉ちゃん(血縁関係ではない)、私の話をよく聞いて。お姉ちゃんは今夜、私の夫と寝ることになっています」
 「えっ、まさか、そんなことはできません」
 「いいえ、神様からのお告げで、そうすることが決まっています」
 「神様からのお告げ…」
 「そうです。そしてそのあと私が夫と寝ます。私は妊娠して子供を産むでしょう。生まれてくる子はお姉ちゃんの子供です。男の子だったらお父様パク・チョンヒ大統領の生まれ変わり、女の子だったらお母様の生まれ変わりです」
 「私の尊敬してやまない両親の生まれ変わり…」
 「そうです。北の工作員に射殺されたお母様、側近に暗殺されたお父様の生まれ変わりです」
 「そんなことがあるのでしょうか」
 「あります。生まれてくる子供のためにすることは亡くなったご両親への親孝行になるのです。そしてお姉ちゃんが将来大統領になった時にも守護神として見守って下さるのです」
 「なんて素晴らしい考えなのでしょう。チェ・テミン先生(後注)の教えですね」
 「その通りです、さあ勇気を出して私の夫と寝るのです」
 「分かりました。今まで通り何でもあなたの言う通りにしましょう」

 

というやりとりがあったかどうかは定かではないが、そうとでも考えなければ説明のつかない事態が韓国で起こっている。韓国全土を揺るがし、国政介入容疑で検察に拘束されているチェ・スンシルの娘チョン・ユラ(女性)は二十歳となり、スイスに亡命しているとみられている。韓国当局が彼女に対し資産凍結・旅券失効などの措置を取ったため、亡命した国から追放されるのを恐れながら数人の男性達と行動を共にしているという。

名門女子大に乗馬特待生として裏口入学していたチョン・ユラがその名を知られるようになったのは、「親のコネや金も実力のうち、恨むなら親を怨め」というTwitterの迷言からだった。

このことがきっかけで影の大統領と噂されていた母親のチェ・スンシルの存在も広く世間に知られるようになり、その親バカな行動が大多数の韓国国民の怒りを買った。娘に東京オリンピックで金メダルを取らせるために必要な金を大統領から圧力をかけさせて大企業から集め、チョン・ユラ一人のためのスポーツ財団を立ち上げたことまでは確認されている。

大企業の方もただ大金をせしめられた訳ではなく、チョン・ユラの乗馬支援資金を率先して寄付していたサムソンには、企業合併のロビー活動という下心があった。サムソン副会長の思惑通り合併は成立し、寄付金を差し引いてありまる差益と会長職への確固たる礎となったが、合併前より株価が大幅に下がった株の大株主国民年金基金には大きな損失が生じ、保険料が値上がり受け取り額が減るという事態を招き、国民に実害を与えている。その他の大企業も不正に目をつぶってもらうという見返りがあってこその寄付だった。加えて寄付金が払えないと見せしめとなったロッテグループのように企業存続の危機に晒されることも実証されていた。

直接・間接的に韓国国民の命運を左右していたことになる弱冠二十歳のチョン・ユラだが、その言動からも分かるように非常に甘やかされて育っている。月の小遣いが1000万円でも足りず、母親のチェ・スンシルがその筋の人間を雇ってボーイフレンドと別れさせようとしたものの時すでに遅し。チョン・ユラは5月に男児を出産している。

チョン・ユラを国外に逃亡させたのは、彼女が韓国で拘束されたら何をしゃべるか分からないという恐怖心からだと言われているが、単なる甘やかしのつけなのか、まだ明らかにされていない何かを恐れている黒幕がトリに登場するのか、まだまだ目が離せない状況なのである。

 

(後注)チェ・テミン:チェ・スンシルの父で新興宗教の創始者。パク・クネ大統領の母親が射殺されたあと「あなたのお母様が夢に出てきました」という手紙を書き、パク・チョンヒ元大統領とパク・クネ大統領に近づき大統領官邸に出入りするようになった。いくつもの名前を使い分け、何人もの妻が居たと言われる。チェ・テミンを非難して逆に非難された中央情報部長キム・ジェギュが1979年にパク・チョンヒ元大統領を暗殺している。