小説(三題話作品:神 とり 大統領)
似たもの同国 by 夢野来人
「おい、ウソだろう」
「いや、それがどうやら本当のようだ」
「だって、トランプなんて政治の世界とは無関係の人だろう。確かに金持ちなんだろうけど、本気で考えてるのか。出馬表明も金儲けの一手段なんじゃないか」
「いや、それがどうやら本人もかなり乗り気のようなんだ」
「おいおい、いくらなんでも大統領は金では買えないだろう」
「それはどうかな。金がなくては大統領にはなれないだろうが、金があればなれるかどうかは、前例がないからな。意外と買えるものなのかもしれないぞ」
「そこまでアメリカ人もバカじゃないだろう。トランプが立候補したって、支持する人がいるとは思えないな。なんたって、やつは【バック・トゥ・ザ・フューチャー】のビフだぞ。アメリカ人がビフを応援するとは思えない」
「そんなことはないさ。昔のゴールドラッシュ、あの目的はなんだった?」
「金鉱を掘り当てて、大金持ちになることだ」
「だろ、アメリカ人にはそういう血が流れているんだ。金持ちになりたい、だから金持ちの人には価値があると思う、金持ち崇拝病みたいなところがね」
「そんな人ばかりじゃないだろう。西部開拓をしてきたフロンティアスピリッツの持ち主だって大勢いるはずだ」
「ネイティヴアメリカンを大量虐殺した後、彼らの領地を奪っていった人たちのことか」
「おいおい、インディアンこそ悪党だろう」
「なぜ、そう思う?」
「第一、彼らは野蛮だ。頭の上にトリを乗っけているやつもいるぐらいだ。飾り物だって、トリの羽根を使っているじゃないか」
「応接間に飾ってある鹿の首や、熊の敷き物は野蛮じゃないって言うのかい。それに、鳥の羽根どころか毛皮のコートなんか着てるやつもいるぞ」
「そ、それは、そうかもしれないけれど。やっぱり、ビフよりはマーフィーの方が好きだろう。おまえだって、そうじゃないのか」
「おれはドクが好きだけど」
「そういうことじゃなくって、ビフやポパイのなかに出てくるブルートは悪役に決まってるだろう」
「おいおい、なぜ悪役になっているかわかるかい?」
「そりゃ、嫌いだからだろう」
「わかっちゃいないなあ。悪役に抜擢されるってことは、みんなの憧れだからさ」
「なんだって!」
「金持ちのビフや力持ちのブルートは、みんなが羨むものをもっているからこそ、悪役という大役に抜擢されたんだ」
「どういうことなんだい」
「羨むからこそ嫉妬する。そのむしゃくしゃした気持ちを晴らすため、いかにも金持ちじゃないマーフィーが、ドクの力を借りてビフを懲らしめる。ブルートだってそうさ。いつものちっちゃくて弱そうなポパイでは勝てない。そこで、ほうれん草の力を借りてブルートをやっつける」
「そんな構図になっていたのか。アメリカはけしからんな」
「まあ、日本も基本は同じさ」
「そんなことないだろう」
「ジャイアンにいじめられているのび太が、ドラえもんの力を借りてやっつけてるだろう」
「おいおい、ジャイアンは羨ましくないだろう」
「いやいや、気に入ったものは力ずくで奪いとる、下手な歌でも気にせず皆に聞かせる度胸の良さなど、普通の人がやりたくても我慢していることや恥ずかしくてできないことを、我慢せず恥ずかしさも見せずにやってしまうところに、心の中では羨ましい思いを感じるんだ。
その強きたくましいジャイアンを弱気なのび太がやっつけるからスッキリするんだ」
「すると、すべては嫉妬の解消手段ってことか」
「ああ、そうさ」
「アメリカも日本も、そういう点ではあまり変わらないってことなんだな」
「そうさ。他にも共通点がある」
「なんだい?」
「アメリカはキリスト教を中心とした理想国家を築こうと建国された国なんだ。一方、日本は昔からの」
「なるほど、お互い神の国ってことか」
「そうさ。そして、その神の存在が最近では疑わしくなってきた。その絶対的存在にとって代わる信頼されるものとして現れたのが」
「お金ってことか。何だか、大統領の座がお金で買えても、不思議ではなく思えてきたぞ」
「そうそう。超大金持ちなら、大統領になるぐらい意外とあまい話なのかもしれないな」
《了》