打ち出の小槌を家宝として持っている男がいた。しかし、効能はあと一回。すでに二回は使われている。「残る願いは一つだけ。一つだけしか願いは叶えられないんだよな」
そう、願いは三つしか叶えられないのだ。
一つめはご先祖さまである一寸法師を大きくする時に使い、二つめはその後を綺麗な姫と遊んでくらすために金銀財宝を出すため使ったという。
「うちのご先祖さまも、なかなかの遊び人だったようだな。案外、俺の働き嫌いは、遺伝かもしれないな」
その後、打ち出の小槌は家宝となり、残り一回の力しか残っていないため、何に使うかを悩んだ末、ご先祖さまたちはとうとう使わずに、この男の代になってしまったということなのだ。
「ご先祖さまたちは、何に使おうかと悩んでいるうちに結局使えず、いい思いをしたのは一寸法師だけじゃないか。みんな、家宝として持っているだけで、幸せだったのだろうか。俺はいやだ。せっかくの力を宝の持ち腐れにするようなことはしたくない。ようし、使ってやる。使ってやるぞ」
この男は決意した。元来が働くことの嫌いな男である。遊んで暮らせるなら、わざわざ働くことなどバカバカしいと思っている。
とは言え、この男、腐っても一寸法師の末裔である。一寸法師だって遊んで暮らしたとは言え、一応悪い鬼をやっつけて、世のため人のためには役立っていたのだ。
この男も、人の役に立ちたいという願望の遺伝子は引き継いでいるのだ。
「この季節、皆が苦しむ花粉症。これを治す薬を打ち出の小槌で作ってネット販売をすれば、大儲けができるに違いない」
この男、いいやつなんだか悪党なんだかよくわからない。
「しかし、気になるのはこの数字だな」
家宝である打ち出の小槌には、ところどころに数字が彫られていた。
「2だろ、0だろ、1に3に、2と2と5か。5までしか使っていないところをみると、五進法で何かを表しているのか。それとも、4という数字がないところに、何か深い意味でもかくされているのだろうか。それとも、それとも・・・」
いつもは何度眺めていても、その数字の意味はわからなかった。
しかし、今日に限って、その数字がつながったのだ。
「そ、そうか。これは年号だ。西暦2013年2月25日ってことじゃないか。その日に何かが起こることを暗示しているんじゃないだろうか」
そう思ってその数字を眺めていると、ますますそう思えてきた。
男は、大事に大事に打ち出の小槌を身に付けて、寝る時も一緒に抱えて眠り、ついに、その日を迎えたのである。
その日は、いつもより太陽の光がまぶしかった。
「さあ、何が起こるか。この目で確かめてやる」
男は打ち出の小槌を日当たりの良い床の間に置き、何か変わったことが起きないか注意深く見つめていた。
すると、いつもより眩しい日の光を浴びた打ち出の小槌は怪しく輝き出し、ほのかに煙が立ち上ってきた。小槌の持つ部分に何やら模様が見えてきた。
「おお、見事なトグロを巻いたヘビの模様だ。決して巻きグソではないぞ。そういえば、2013年はヘビ年だったではないか。さあ、今、打ち出の小槌の謎が解き明かされるんだ」
男は胸の高鳴りを抑えることができなかった。
見事なヘビ模様の下にも、煙が出てきて、うっすらと文字が浮かび始めてきた。
「来た来た来た〜、さあ、教えてくれ、どんな謎が秘められているのだ!」
煙は収まり、そこには漢字四文字がはっきりと表れてきた。
「なんてことだ。とんだ宝の持ち腐れだ。あの数字が《消費期限》だったとは・・・」