「ただ今戻りました。ボス」
「ご苦労だったな山さん、で、やつの様子はどうだった?」
「扱いにくいのかと思ってましたが、意外と素直なやつでした」
「山さんに任せたお陰で、マスコミからは一切嗅ぎ付けられなかったよ」
「しかし本人が『長野刑務所ナウ』とやったのには参りました」
「時代の寵児だった名残だろう」
「しかしボス、なぜ1課に護送依頼があったんです?」
「実はやつの暗殺予告があったんだ」
「やっぱり金がらみの恨みからですか」
「まあ、そんなところだろう」
「本人そんなこととは露知らず『周りには杉が多いだろうか』なんて気にしてました」
「スギ花粉症か?」
「かも知れません。『俺だったら花粉の出ない杉を使う』とも言ってました」
「そう言えば、やつの故郷には八女杉があったな」
「凡人には『発想の転換が無い』んだそうです」
「やつの本にもそんなことが書いてあったな」
「本を読まれたんですか?」
「『夢をかなえちゃう!打ち出の小槌』っていうのをざっとだが」
「何だか軽いタイトルですな」
「内容も軽くて『成功したければ最短経路を考えろ』とあったよ」
「最短経路がTV局買収や政治家になることですか」
「蛇の道は蛇ってことだろう」
「大蛇つまり政治家の道を子蛇の黒江が知ってしまったということですね」
「そうだ。しかし当の大蛇達が黙っているはずもない」
「秘密裏に抹殺されてもおかしくなかった、ということですか」
「哀れなやつだ。大物政治家からは『親しき仲にも礼儀あり』と切られ」
「金つながりの元仲間達からも、あっさり不利な証言をされてましたからな」
「とにかく任務は成功だ。感謝するよ、山さん」
「いえいえ、私にできることは、これくらいですから」