小説(三題話作品: ひつじ 雪 ◆流行語◆)

スーパーフライ~羊はそれを我慢できない by k.m.Joe

雲の上の、そのまた上の、神さまだけが住んでいる世界。2014年も終わろうとする時、恒例の「干支引き継ぎ式」の準備が着々と進んでいた。


「おお、なかなか良い羊じゃ。いいじゃないの」目を細めているのは、引き継ぎ式総合管理担当の神さまだった。隣りで緊張しながらも嬉しそうなのは、下界から羊を連れてきた神さまだ。この行事は、神さま経験満一年を迎えた新米の神さまが、ゆく年くる年の動物を集めてくる事から始まる。


「ところで馬はまだか?」
「はい、もう下界に下りてだいぶ経ちますね。ちょっと見てきます」
「頼む。あいつは気が弱いところがあるからなぁ」


先輩神さまが、馬を探しに行った新米神さまを探しに行く事に。神さま探知センサーがあるから大丈夫。とある牧場ですぐに見つかった。


「おい、どうした?」
「あ、先輩。困ってるんです。ここにいる、引退した競争馬を連れて帰ろうとしてるんですが、私を神さまだと信じてくれないんです」


すると、一頭の馬が、うさん臭そうな顔つきで近づいてきた。「おやおや、仲間を呼んだのか?」
「おい、どうやったらついて来るんだ?」
「アンタたちが信頼できると思えたらな。俺も天下のスーパーフライだ。GⅠレース無敗の勇者!種馬になっても良い仕事してるぜ!ヒヒ~ン!」
「エッ?名前何だって?」
「スーパーフライさ!」
「スーパードライ?」
「ビールかよ!」
「スーパーのフライ?」
「見切り品は安いのかよ!ヒヒヒ~ン!面白えヤツだ、気に入った。行ってやろうじゃねえか!」


呆気にとられている新米神さまの耳元に、先輩神さまがそっと囁いた。「こういう屈折したタイプは、無理に説得しようとせず、自然な流れでありのままに会話すれば良いんだよ」


無事、神さまの世界に着いた一行。既に宴の準備が進められている中、スーパーフライは、先客の羊がいる控室に案内された。
「やぁ、俺はスーパーフライだ。アンタの名前は?」
「ジャッキー・ブラウン」
「えらくご立派な名前だな。ところで、ジャッキー、食事の用意がされてるみたいだけど、まさか俺たち、馬刺しとジンギスカンにされるんじゃないだろうな?」
「まさか、そんな、人間みたいな事するわけないじゃない!もし、毎年やってるんだったら、辰から巳の時はどうするのよ」
「あ、確かに食えねえな。子と申もキツイ」


スーパーフライの心配は杞憂に終わった。単なる宴であり、彼らもその恩恵を十分に味わった。しかし、困った事に、すっかり満腹になった為、スーパーフライの種馬気質がよみがえってきた。可愛いお尻を振りながら前を歩くジャッキー・ブラウンに、そそくさと近寄っていった。


「よぉ、ジャッキー。これも何かの縁だ。二人きりでゆっくりしないか?」
「ダメよ!ダメダメ!」
「まぁそう言わずに、ここちょっと寒くないか?暖まろうぜ」


次の瞬間、ジャッキーは後ろ足で立ち上がって素早く振り返り、どこから出したのか、ピストルをスーパーフライに向けた。


「少しも寒くないわ」カチャリ。


一瞬で事情を察知したスーパーフライの逃げ足は、生涯最高のスピードだった。


<この小説はフィクションであり、登場人物、馬、羊、団体名等は全て架空のものです>