Mirubaの カクテル小説 辞典

 

JACK とJAKKU(ジャックとジャック)by Miruba
[JACK ROSE]

手探りでネットを始めた頃だから、もう17、8年前のことになるかしら。
御多分に漏れず、最初は少ないサイトでメル友ができたり、掲示板の交流なのに、いや、むしろ文字だけの交流だからか、いつの間にか心を吐露するような言葉をネットを通じて交わしたりした。
今と違ってバーチャルとリアルの垣根がハッキリとしていたのね。

バーチャルの相手は、何処の誰だか知らないからある日突然の別れが来たり……連絡を取りたくとも、ネット宇宙の中では探すすべもなく。取り残されたような、突き放されたような、寂しくむなしい思いをしたものよ。
いろいろあったなぁ(遠い目^^うふ

サイト自体もまだまだしっかりしていなかったから、突然の不具合から通信不能になったりしたのよね。
初めて入ったサイトはチャットコーナーがあった。コメントが全く入っていなかったり、コメントを入れでも3日や4日全く反応がなかったり。徐々に毎日顔を出す人が現れだして、それでも何か月も5、6人せいぜい10人くらいだったわね。
年月が経ってだんだん参加者が増えて、専門サイトが少なかったこともあって、一時期は一日に何十人も掲示板にスレッドを立てて、コメントはその何倍になるほど盛況だったこともあったのよ。
徐々にサイトも爆発的に増えてきて、またサイトを始めた人が体調を壊し迷惑投稿を放置してしまい、結局いつの間にか閉鎖されちゃったの……
懐かしいわ。

そこにハンドルネーム「jakku(ジャック)」という人がいた。
パイロットという事だったわ。だからフライトがあちこちの外国で、今日は中国だ、明日はアメリカだと書き込んでいた。
当然女性陣の人気者で、中には日本では何処に暮らしているのか、オフ会しないか(当時はオフ会という言葉も出始めたばかりだった)と熱烈なラブコールを送る人もいたけれど、所詮掲示板のことで、本当に会いたかったのかは知らないけれどね。

私も素敵だなーとは思っていたけれど、ある時 ジャックさんがパリの話をしたのよ。内容はよく覚えていないけれど、少々時代錯誤的な事を言ったので、「それ何時の話? 今ではそんなことないと思うわ」とコメントに書いたら、「この間のフライトの時だから、間違いない」と強調するわけ。
ま、観光で来たぐらいでは住んでいる感覚とは違うのかもしれないと思って、深く追及しなかったのね。
ただ、そのことがあってから、ちょっと外国に行くと、「欧米では……」というアメリカもヨーロッパも西欧も東欧も一緒くたにする方の意見が増えてきて、「ん~違うよな~」という気持ちがあり、私も徐々にフランスに住んでいるのよ~、みたいなことを書き始めたの。

一年ぐらいしてから、掲示板で親しくなった「ふーさん」というハンドルネームの女性からある日掲示板ではなくメールが来た。
ジャックさんと親しくなった。掲示板だけでなく、メールのやり取りをするメル友だ。
私、彼が大好き。彼も私が好きだと言ってくれる。
今度二人で会うことになった。
ね、どう思う?

さて困った。
私にもジャックさんから頻繁にメールが来ていた。もちろんラブメールではない。
彼はいろいろヨーロッパの話を聞きたがっていた。
で、私は、ジャックさんがパイロットではない、と思っていた。
英語が苦手な私はある時チャットで会話しているときに、何となくそんな話が出て、
「……そういえばジャックさんあなたのハンドルネーム、jakkuってあるけれど、英語でjackと書かなかった理由はあるの? 理由を英語で書いてみてよ」冗談でチャットに書き込むと……
「ごめん、客が来た、ちょっと抜けるね」と書き込んでそれからサイトに数日姿を現さなかった。

何となく違和感を感じていたことを、だが、ジャックさんを好きになったふーさんに言うべきか?
すると、ふーさんのほうから「実は……」と。
英語教室に通っているので、疑問があって質問しようと英語の会話をするときになると、彼に突然ネット上の不具合が起きたり来客が来たりしたので、ふーさんもちょっと? と感じている、というのだ。
「パイロットって、英語話せるよね?」なんて、当たり前のことを言い出す始末。

所詮バーチャルの世界だよね。
相手が女で男を装うとしていても、子供が大人のふりをしても、別に本人がそれでよければ良いと思うほうなので、私は知らん顔をしていたってわけ。どんなに装っていても、本質は変わらないものだからね。
「ふーさんに少しでも疑問があるのなら二人で会うのはどうかな~」とだけ言ってみた。
すると数日後ふーさんのメールに、「ジャックさんに、『オフ会でみんなとまず会ってから、二人で会えば? ってmiruさんに言われたの』って伝えたら、『miruさんって本当にフランスに住んでいるのかな? 怪しいよね』と言ったのよ。ねぇ、miruさんは嘘つかないわよね?」
「ん~そうなんだ、ふーさんがしたいようにすればいいと思うのよ。冷たい言い方でごめんね、あなたの自己責任だと思うわ。私のソースを見れば、パソコンからフランスの情報が記載されているからわかると思うよ、もっとも転送されていると思ったらそれだけのことね」
「え? ソースって何?」
ジャックさんへのメールに、「二人きりで会うのなら、できたら嘘はつかないであげてね」と書いたら、「ごめんなさい」とだけのメールを最後に二度とメールが来なくなったから、ジャックさんとふーさんが実際会ったのかどうかわからないの。

私のパソコンの状態が悪くなり新しいパソコンを購入するまで3か月ほどネットとはご無沙汰になった。
当時はネットカフェもシャンゼリゼまでいかないとなかったからね。
再度覗いたサイトにふーさんの姿もジャックさんの姿もなく、確かめようもなかったのよ……

そんな時代だった。



先日、いつものピアノバーに飲みに行った。
「マスター、今日お薦めのカクテルをくださいな」と注文すると、
「JACK ROSE(ジャック・ローズ)はいかがですか」と作ってくれたのよ。
甘くて優しく、でもちょっときつめのジャック・ローズを美味しくいただきながら、ふと、ジャックさんを思い出した。
最後まで知らん顔をしてあげていたら、まだ友達だったろうか。
ネット宇宙ですれ違うこともなくなったけれど、リアルな一時の友人と変わらなかったんだなぁ、と思うの。

ジャック・ローズ 【JACK ROSE】 
▶【ブランデーベース】

バラの花を連想させる、美しい色とかぐわしい香りのする女性向きのカクテル。
ベースに使われるアップルジャックは、アメリカ産のアップル・ブランデーのこと。アップルブランデーといえば、フランスのカルヴァドスが有名だがノルマンディの特産のリンゴで作ったものだけがカルヴァドス (calvados)と呼ばれ、他はアップルジャックになる。
グレナデンシロップの色が美しく、アップルジャックで作ったバラ(ローズ)のような色合いというのが名前の由来。 
ただ、飲みやすさにうっかり急いで飲んではいけない。意外に強いので注意が必要。

▶レシプ
アップルジャック・・・・・・・・40ml
ライム・ジュース・・・・・・・・・10ml 
グレナデン・シロップ・・・・・・・10ml 

シェークしてカクテルグラスに注ぐ.