小説(三題話作品: リゾート こい ホルモン)


えれこっちゃM市観光課 by 御美子

「皆さん、お暑い中、もう集まっちょったとですね。外回りして、さっき市役所に戻って来たっですが、暑くてたまらんですがねえ。官公庁が先頭切って節電せんといかんから冷房設定温度が高くて、ちっとも涼しくならんとですよ。あっ、無駄話してる場合じゃなかったっちゃ。日高くん、今日の議題について説明してくれんね」
 「ただ今観光課課長の岩切からご紹介にあずかった日高です。今日はM市の観光を盛り上げるため、M市在住人気旅行ブロガーのお二人から、ご意見を頂戴することになっています。課長、簡単に経緯の説明をお願いします」
 「改めまして、観光課の岩切です。ご存知のように、M市の観光産業は低迷し続けちょります。悲しいことに、かつて新婚旅行のメッカと言われたM市の面影は全く残っちょらんとです。いつまでも昔を懐かしんでいるばかりじゃ埒が明かんですから、お二人に対策のヒントをいただきたいと思っちょります。じゃ、日高くん、進めてくれんね」
 「それでは、早速ブレーンストーミングから始めます。思いついたことを何でも仰っていただけませんでしょうか。はい、長友さん、どうぞ」
 「去年、同じ県内でH市が作った観光PR映像が話題になったとを覚えちょりますでしょうか。ネットサーファーのオタク男子が、H市の海岸でサーフィンを習って、爽やかな青年に成長するってやつです。H市が全国区で有名になったようですし、良い例やっちゃないでしょうか、ねえ、米良さん」
 「ええ、覚えてます。H市の知名度が上がって、県外からの旅行者が増えましたよね。それで思い出したのですが、最近、M市の街中でもサーファー風男子を見かけませんか?」
  「茶髪で軽そうな若い男の子達のことやろ? 話し方が違うから、県外から来ちょっるちゃなあと思っちょったとよ」
  「軽そうという部分は別として、だいたい仰る通りです、長友さん。街中で見かけるサーファー風男子は県外から来た大学生だと思われます」
  「さすが、米良さん。女子目線でメンズのチェックは怠っちょらんね。地元出身の若者は大学ん時から全国各地に散らばっちょるから、県外の若者が多いっちゃろね」
  「メンズチェックなんかしてませんよ、長友さん。それより、夏祭りの時とか、甚平姿のサーファー風男子と浴衣姿のギャルが目立ちますよね。サーファー風男子は確かに女子に人気です。彼らに観光PRに一役買ってもらうっていうのはどうでしょう。県内外の女子にウケると思うんですけど」
  「サーファー風ファッションで何かやってもらうと? 僕らおじさんには一向に想像ができんちゃけど」
  「少し前にマッチョビアガーデンやマッチョリゾートを取材しましたが、彼らは動く広告塔の役割をしていました」
  「ほう、マッチョねえ。キャラが濃いからインパクトありそうやね」
  「そうなんです。マッチョがいるだけで女子がざわつきますし、イベントでつまらなそうにしている女子をお姫様抱っこなんかしたら、周りの女子までわあわあきゃあきゃあ、女性ホルモン出まくりなんです」
  「嬉しそうやね、米良さん。若い女性がわあわあきゃあきゃあとか、僕らも嬉しいっちゃけど、サーファーって、そんなに力持ちやったっけ?」
  「そこなんですよね。マッチョほどの強烈なインパクトや腕力が無いのがちょっと・・・」
「行き詰ってしまわれたようですね。それでは岩切課長、今までのお二人の意見を聞いて、感想などありませんか?」
  「さすがトップブロガーのお話だと感心しちょったところです。ここはお二人の意見を尊重して、サーファー風ホストとか、女装サーファーに進展させるといいっちゃないでしょうか」
  「・・・」
  「あっ、すみません。画像を想像して一瞬フリーズしてました。気を取り直して、長友さん、課長の意見をどう思われますか?」
  「ホストとか女装は、あんまりやっちゃないやろか。ねえ、米良さん」
  「そうですねえ、サーファーは爽やかなイメージですから、ちょっと・・・」
  「あっ、なんか間違ったこと言ったみたいやね。つい自分の好みで」
  「そんな趣味があったんですか、課長! 夜な夜な繁華街に繰り出していると思ったら」
  「なん言っちょとね、日高くん。毎日通ってるわけじゃないとよ!」
  「当たり前です。でも、頻繁に行ってることは認めるんですね」
  「日高くんも一度行ってみんね。ハマるっちゃが」
  「ハマりたくないですよ。身の危険も感じますし」
  「観光課に居るって言ったら『M市の為に頑張って~』とか言われてサービスもいいっちゃけどねえ」
  「それって、公務員としてまずいでしょう。って課長、市民代表のお二人が引いてるじゃありませんか。M市の職員の品位を疑われます。これ以上の発言は控えてください!」
 
 こうして、この日の会議は暗礁に乗り上げたのだった。
 
注:このお話は私的な経験からインスパイアされたものですが、100%フィクションで、登場人物も全て架空の人物です。