小説(三題話作品: 犬 梅 映え)

とある高校の修学旅行by 御美子

「太宰府天満宮に到着したな。全員バスを降りるぞ。学級委員、班ごとに整列させて点呼してくれ」
「吉永先生、点呼終わりました。全員そろってます」
「よし、これから班ごとに自由行動だ。3時間後にバスに集合!梅が枝餅、食い過ぎるなよ」

「全員バスに乗ったかしら?」
「峰…先生でしたっけ?」
「あら、夏休み前日に日直だった子ね。学級委員だったの?記憶力のいい男、好きよ」
「そんなことはどうでもいいんですが、吉永先生はどうしたんですか?」
「吉永先生は、梅が枝餅を食べ過ぎて近くの病院で手当て中よ」
「本当ですか?夏休み前日に先生がいらした時、吉永先生は峰先生のこと知らないと言ってましたけど」
「男子が、いや女子もだけど、そんな細かいこと、いちいち気にしなくていいのよ」
「はあ。ところで、峰先生、次の目的地は、ご存知なんですか」
「もちろん、分かってるわ。今からフェリーに乗るけど大船に乗ったつもりでいらっしゃい」

「峰先生、この船どこに向かっているんですか?」
「犬島の宝伝港よ。いい名前でしょう」
「いい名前かどうかは別として、一体何しに行くんですか?」
「私が観光に行くとでも思った?ところで、島の名前の由来は知ってる?」
「知りませんが、先生、僕の話聞いてます?」
「菅原道真が太宰府に流される途中、船が難破した時、彼の愛犬の声が聞こえた気がして、この島に辿りついて助かったのよ。愛犬は既に殺されてたんだけどね。それで彼の犬が祀ってあるわけ」
「峰先生、島の神社で奉納される宝物を狙っているんじゃないでしょうね」
「なかなかいいところをついているわね。あっ、宮司がいらしたわ」
「お待ちしておりましたぞ、峰先生と生徒さん方。今年は干支にちなんで12年に一度の宝物を奉納する年で、修学旅行中の皆様にお寄りいただいた次第です」
「そうでしたわね。早速物理担当の私が、宝物が本物か確認致しますわ」
「峰先生、物理の先生だったんですか?」
「学級委員くん、いい子だから少し黙っててちょうだいね」
「峰先生、こちらが菅原道真公が朝廷から賜った水晶でございます」
「時刻もちょうどいい頃ね。夕映えが綺麗だわ。水晶が本物かどうか夕日にかざしてみましょう」
「如何でしょう。峰先生」
「確かに本物の宝物ですわ。よくぞ12年も守り通されましたね、宮司様」
「それを聞いて安堵いたしました。何しろルパン三世から『お宝はいただく』と予告されていたものですから、知らないうちに偽物にすり替えられたのではないかと気が気じゃありませんでしたよ」
「この私が、そんなことさせるわけないじゃありませんか。うちの生徒たちが全員見学させていただいたら、水晶は厳重に保管して下さい」

「峰先生、水晶を盗まずに帰るんですか?」
「人聞きの悪いこと言わないで、学級委員くん。でも、必要なものはもういただいたから大丈夫よ」
「どういうことですか?」
「水晶を夕日にかざすと暗号が現れるの。みんなが見学している間に、それを隠しカメラに収めたわ」
「水晶を盗むのが目的じゃなかったんですね」
「それより価値のある菅原道真の解読コードを手に入れたのよ。水晶より高く売れるわ」
「そんな大昔の情報に何の価値があるんですか?」
「菅原道真は、世に存在するあらゆる差異、差別と言ってもいいわね。これを構造化して仏教的原理と解読コードを用いることで、概念間の差異を消去し、あらゆる存在を均質化して理想の世界観を描き出そうとしたのよ。この解読コードを世界の指導者たちが金に糸目をつけずに欲しがってるわけ」
「難しすぎて理解不能ですが、ルパンはこのことを知っているんですか?」
「犬島の水晶の秘密を教えてくれたのはルパンだけど、勿論、私が独り占めするのよ」
「それって、あんまりじゃありませんか」
「裏切りは女のアクセサリーなの」

「あっ、吉永先生だ。お腹は大丈夫ですか?」
「おお、学級委員。大丈夫も何も、バスごとお前たちが誘拐されてインターポールに連絡したんだ」
「ルパーン!どこだー。今日こそ、お前を逮捕するぞー!」
「銭形警部、ルパンはここにはいませんよ」
「何だとー!」
「峰先生が、僕たちをここまで連れて来たんです」
「不二子か。不二子がいるところにルパンも必ずいる。不二子はどこだ」
「えっ、峰先生って峰不二子なんですか?さっきまで、ここにいたんですが・・・」
「まったく神出鬼没な奴らだ。とにかく生徒さん達が無事でよかったですな、吉永先生」
「また、俺だけ峰先生に会えなかったってことか。お前は2回も会ったんだろ?学級委員」
「がっかりしないでください、吉永先生。次はきっと会えますよ」

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