新作噺(三題話作品: いのしし 紅白 どん)

年神さまのコスプレ by 網焼亭田楽


毎度バカバカしいお笑いでございます。新年も明けまして、大変めでとうございます。
ところで、年が明けるとなぜめでたいのかご存知でしょうか。それを知らないと言われてしまいますよ。ボーっと生きてんじゃねえよってね。
新年明けると何がめでたいとか言えば、古くからは年神さまが各家庭にお見えになるという言い伝えでございまして、

どうしたんです? 今度はポカーンとお口なんぞお開けになって。そうですかそうですか、年神さまが何かわからないんですね。
えっ、そこのおじ様おわかりになる。お宅には新年どころかいつもいらっしゃる。それは大変おめでたいご家庭で。
ところがめでたくないとおっしゃるので。普通のご家庭には一年に一度年が明けた時にしかやって来ない方なんですよ。それが始終いらっしゃるなんて、素敵ではございませんか。
えっ、何ですか? 始終は始終でも、年が四十ですって? 
あっ、それ違います。年神さまじゃございません。年カミさんですね。そうです、年とったカミさんのことです(笑)
では、本当の年神さまとは、まあ簡単に言うと、人間死ぬとご先祖さまの元へ帰ります。ご先祖さまはたいてい山にいらっしゃいます。そこで、山の神になるんですね。稲刈りのシーズンになるってえと、山から田んぼに降りていらっしゃって、田の神になります。そして、新年明けますと、自分の子孫の家庭に訪れます。それを年神さまと言うようでございます。
だから、門松なんてえのは、山から採って来た竹や松に、田んぼで取れた米のワラを巻いて、年神さまのお出迎えを準備するものなんです。

さて、そんな年神さまは最近コスプレにハマっておりまして、

えっ、いけないんですか神さまがコスプレしては。良いんです良いんです。人間それぐらいの余裕を心に持っていなくては。あっ、人間じゃございません(笑)
では、なおさら心に余裕が必要でございます。そりゃコスプレも派手になろうってもんです。

ただ、腐っても神さまです。えっ? 腐ってない?  そうですそうです、腐ってなんかいるもんですか、もうプリップリの鮮度抜群なコスプレです。そのコスプレで毎年かけっこするのですよね。
で、一番になったものが今年の干支として採用されるって寸法です。

さあ、今年の年神さまはどんなコスプレを披露なさってくださるのでしょうか?
さあ、どうぞお越しください。

いやあ、こりゃあ顔面紅白!

いえいえ、そんなめでたいものではございません。それを言うなら顔面蒼白(笑)
ほんともう、まっつぁおです。
事もあろうに、動物ですよ動物。しかも架空ではなくて生きてるやつ。
本当にそれでいいんですね。
何も好き好んでブタのコスプレしなくとも良いでしょうに。
えっ、ブタじゃない。イノシシですか。この際致し方ございません。でも、そんなんでかけっこ勝てるんですか?

まあ、いいです。やってみましょうさあ、始まりますよ。今年の干支を決めるかけっこです。

さあさあ皆さん、位置について、よーい…

あっ、年神さまフライングです。もしもし、どう見てもブタにしか見えない年神さま~、フライングですよ~、元の位置へ戻って下さ~い。
あ~、行っちゃいましたね。あのコスプレがいけませんでした。

猪突猛進、後戻りはできないようでございます。

さてさて、今年一年、どんな年になるのでしょうか。
皆さまにとって幸多き年になりますように、心からお祈り致したいと存じます。