小説(三題話作品: いのしし 紅白 どん)

とある高校の冬休み明け by 御美子

「起立、礼、着席」
「皆さん、お久しぶり。冬休み中、いい子にしてたかしら?」
「あっ、峰先生、いや、峰不二子さんとお呼びしたほうがいいのでしょうか」
「あら、学級委員君、今学期も学級委員なの?」
「はい、なり手がいなくて……。じゃなくて、担任の吉永先生は、今回はどこに?」
「吉永先生には、護王神社に行っていただいているわ」
「元旦からだいぶ経ってますが、今頃、神社ですか?」
「今から全校生徒が見守る中、吉永先生には、あるミッションを遂行していただくのよ」
「もしかして、冬休みの間に、全教室に最新のIT設備がフル装備されたことと関係があるんですか?」
「さすが学級委員君。勘がいい男、好きよ。衛星放送をオンにしてちょうだい。今から吉永先生のミッションを全校生徒に生中継するわ。護王神社の吉永先生、聞こえてるかしら?」
「はい、峰理事長。ご指示通り、護王神社で待機しております」
「それじゃあ、前理事長の為に『足腰の病気怪我平癒』の祈祷を始めていただいて」

「滞りなく済みました」
「社頭授与所へ寄ってもらえるかしら。紅白のお守りを買ってきて欲しいの」
「社頭授与所に到着しました。赤の腰のお守りと、白の足のお守りでよろしかったでしょうか」
「その通りよ、吉永先生。ミッション完了だから、なるべく早く学校に戻ってちょうだい」
「はい、承知いたしました」
「学級委員君、生中継をオフにして」

「何あれ、吉永先生は、いつから峰先生のパシリになったの?」
「マジ、どん引きだな」
「峰先生、いったい、どういうことでしょうか。吉永先生が峰理事長と仰っていたような」
「冬休み中に、この学校を買い取って、私が理事長に就任したの」
「いったいどうやって……」
「前回の修学旅行の時に手に入れた情報で莫大なお金が手に入ったのよ。理事長職は色仕掛けで前理事長からいただいたわ。大人の事情で、理事長の足腰が立たなくなるというアクシデント以外は順調に進んでるの」
「大人の事情で『足腰の病気怪我平癒』の祈祷と足腰のお守りというのが、イマイチ謎ですが」
「そんなのは大したことじゃないから気にしなくていいわ。護王神社が、今後のプロジェクトのモデルケースで、全校生徒に参考にしてもらいたかっただけだから」
「いったい何のモデルケースなんですか?」
「護王神社には誰が祀られてるか知ってる?」
「いいえ、でも、狛犬の代わりに狛猪なんて変わった神社ですね」
「さすが、学級委員君、目の付け所がいいわね。奈良時代、称徳天皇に取り入っていた道鏡っていう坊主が、ご神託があったと言って、自ら国を治めようとしたんだけど、その嘘を見破って野望を阻止した和気清麻呂が祀られてるの。道鏡の怒りに触れて流罪にされた時、猪に助けられて病気も治癒したという伝説があるわ」
「日本を守った偉い人が祀られているんですね」
「流罪後に再び国政に参加し、平安建都や人材育成に尽力したりして、大きく貢献した割には正当に評価されてなかったみたいね。明治天皇の時代になって、ようやく相応の評価を受けたのよ」
「和気清麻呂の子孫も、さぞかし喜んだことでしょうね」
「悲願達成というところかしらね。子孫たちが自ら働きかけなければ実現しなかったでしょうから。他人の名誉回復なんて、お金でも貰わない限り誰も興味ないわ」
「ところで、なぜ学校を買ったんですか? 峰不二子のイメージには合いませんが」
「へたな財宝より情報の方がお金になる時代でしょ。名誉を回復したい、と言うより黒歴史を消したいクライアントから、前金で報酬をたっぷりいただいて、情報操作を頼まれてるの。今後も世界の指導者たちから、同様の依頼が次々と舞い込むに違いないわ。学校はいい隠れ蓑だし、学生という優秀な人材を使わない手はないでしょ? 私が教育者になるとでも思った?」