小説(三題話作品: れいわ コーヒー 夏休み)

とある高校の夏休み実習 by 御美子

 
「生徒の皆さん、おはよう。明日から、待ちに待った夏休みだけど、今から病院で実習を行います」
「峰理事長、白衣姿もセクシー、じゃなくて、病院で実習?僕たち普通科の高校生なんですけど」
「学級委員長君、まだ私のやり方に慣れていないようね。私が目的も無しに実習なんかさせると思う?」
「いえ、今までの経験上、何か目的はあると思うのですが、毎回突拍子もなくて……」
「今回は複数クライアントの案件を同時進行するから、君たちの協力が必要なの。分かるでしょ?」
「全然分かりませんけど、今回は一体何をやらかすんですか?」
「人助けみたいなものだから、安心なさい」
「ますます怪しいですけど、もしかして、この白い実習服を着るんですか?」
「察しがいいわね、学級委員長君。全員速やかに着替えさせて集合させてちょうだい」

「全員揃いました」
「今から向かう病院の個室には、検査入院中のクライアントと、治療同意書作成と偽って彼らの子息たちが呼び出されているわ。君たちはPCの扱いに慣れていない子息らにPCタブレット内の質問事項への回答補助をするのよ。タブレットPCは各病室のトレイワゴンにはいってるわ。早速現場に向かってちょうだい。学級委員は統括本部で子息らの回答集計結果の解析よ」
「どのような質問内容なのでしょうか」
「今回の子息たちの共通点は、4,50代になっても経済的に自立していないってこと」
「えっ、そんな年齢で経済的に自立してないって……」
「今や社会問題化していて、高齢の親たちの悩みの種よ」
「あっ、もしかして、授業で試算した多様な家庭の生涯生活費とか、社会迷惑度及び自立可能性度判定システムや社会更生プログラムを作ったのも、この為だったのですか?」
「勘がいい男、好きよ。中年の子息たちの将来を悲観した高齢の親たちが今回のクライアントよ。質問への回答によって、クライアントが亡くなった後の自立可能性度を見極め、施設に送るのよ」
「施設って、人権問題とか大丈夫なんでしょうか」
「自動車運転免許更新の講習を受けるイメージね。社会迷惑度が高ければ、長時間の講習を受け、社会奉仕をしてもらうことになるわ。この問題に関しては政府も頭を痛めていて、システム構築時点で我が校に打診があり、支援金を前金でいただいてるわ。そろそろ質問への回答集計結果が出始めたわ。コーヒー一杯飲む暇もないわね。最初の事例を読みあげてちょうだい」
「母親78歳、長男55歳は母親と同居、離婚歴あり。元妻に借金があったが、母親が肩代わり。仕事は長続きせず、たまに仕事がある時は、母親に弁当まで作らせるが、家には生活費を一切入れず、暇があればパチンコ通い。次男53歳は、居酒屋事業に失敗して多額の借金を作る。母親から住まいを提供され、ダブルワーク中。二度の離婚歴あり。実子がいる元妻への借金に関しては裁判所から支払い命令があるため日雇い給料から天引き。連れ子がいる元妻にも借金があるが、殆ど返せずじまいのため、元妻から78歳の母に督促電話がかかってきている。次男は元妻に暴力をふるったという証言あり。二人とも母親が亡くなった後の生活費は、死亡保険金を当てにしている。社会迷惑度は10段階中、長男が8で次男が9。自立可能性度は長男が2で次男が3です」
「二人とも、長時間の講習と社会奉仕が必要なようね」
「そんな施設、日本にあるんですか」
「高齢の親たちがクラウドファンディングし、過疎で消滅した村に秘密裏に建設された政府お墨付きの施設よ。高齢者のタンス預金を金融市場で有効活用したい政府の思惑とも完全に合致しているわ。まだまだ需要はありそうだし、内需拡大にも貢献できるってわけ。ねっ、人助けでしょ」