小説(三題話作品: 生 入道雲 ウイルス)

ボクのじいちゃん by k. m. Joe 

今日はじいちゃんとネット電話をする日だった。準備して、誰もいないけどじいちゃんの部屋が写ったのを確認して、ちょっと席を外した。戻ってきてパソコンの画面を見て驚いた。じいちゃんの顔がパソコンの画面からはみ出さんばかりに大写しになっていたんだ。
 
「やめてよ、じいちゃん!ビックリするじゃん」
「ハッハッハッ、ごめんごめん。マサオ、元気にやってたか?」
 
じいちゃんは時々こんないたずらをするんだ。
 
「元気だよー。じいちゃんも元気そうだね。あ、昼間から呑んでる!」
 
じいちゃんはお酒が好きで、生ビールのサーバーまで買っている。左手にジョッキを掴んでまずゴクゴクおいしそうに呑んだ。
 
「今日のツマミは何なの?」
「おぉ。じいちゃんが学校の先生をやってた時の生徒がな、千葉で落花生農家をやっとるんじゃ。送ってくれた。本場の落花生はうまいぞう。今度そっちにも送ってやるよ」
 
ポテトチップスの袋よりひと回り大きいビニール袋をじいちゃんは嬉しそうに振った。
 
「そっちのお皿は何なの?」
「これは婆さんが生協で買った生ハムじゃ。ほれほれ」
「それもおいしそうだね」
「うんうん」グビグビ。
 
「マサオも来年は中学生じゃのう。そろそろ生えてきたか?」
「え?」
「あ、いやいやなんでもない。今年はコロナで大変だなぁ」グビグビ。ポリポリ。
「コロナって言えば、ウイルスって生き物じゃないんだね」
「おぉ、そうらしいの。無生物って言うらしい。なんでも、生物の条件に少しだけ合わないらしい」グビグビ。パクパク。
「よくわかんないや」
「まあ、その条件だって人間が決めたんだろうから、果たしてどんなものかのう」グビグビ。「婆さーん、ビールお代わり!」
「はあい」
 
「マサオたちは夏休みはあるんか?」
「うん。短いけどね。でも、自由研究とかはあるんだよ。夏休み過ぎてもオーケーらしいけど」
「ははは。マサオは理科が苦手だからな。おーい、婆さんお代わりは?」
「はいはい」
「まったく、生返事ばかりじゃな。そういや、マサオ、この間ネットで面白いもの見つけたぞ」ばあちゃんがお待ちかねのお代わりを持ってきた。
「あ、ばあちゃん、ひさしぶり」
「マサオくん、早くこっちに遊びに来れたらいいね」
「うん、皆も会いたがってたよ」
「はいはい、ばあさん、ちょっと後にしてくれ。マサオ、入道雲って知ってるだろ?」
「積乱雲ね」
「こらこら、子供の方が正式名称で言うてどうする。生意気なやつめ、わっはっは」グビグビ。ポリパク。
「入道雲がどうしたの?」
「それが作れるらしいんじゃ。『入道雲 作り方』で検索してみ」グビグビ。
「でも、どうせ作れないよ」
「おいおい、まだ見もしない内から決めつけるなよ。いいか、マサオ、世の中色んな人間がいる。入道雲を簡単に作れるやつもいれば、どうしていいかわからないやつもいる。でも、その差を縮める事はできるんじゃ」グビグビグビグビ。パクパクポリポリ。グビッ。
「どういうこと?」
「諦めるのは簡単、努力は大変。だから皆、諦める方を選びがちじゃ。でもな、実力不足の人間も、勉強したり、やってみて失敗したり、或いは他人の助けを借りれば達成できる事もあるんじゃ」グービグビ。
「お前の友達で科学に詳しい子がおったじゃろ。わしも話しした事ある」
「あぁ、一生くんね」
「うん、相談してみるのも一つの手じゃ。それとな、わしはこの歳になって思うんだが、悔いのない人生はあり得ない。それでも悔いを無くそうとする事はできるんじゃ。それはな、毎日の生活の中で色んな問題が起きるじゃろ。それに真摯に、えーと真面目に取り組む事じゃ。わかってもいないのにわかったようなふりをする、生半可な態度が一番いかん」ポリポリ。グビグビ。
「マサオも少しは英語を知っとるじゃろ。ライフという英語があるな。あれは人生と生活と命という意味に共通している」グビッ。
「つまり、人生と生活、毎日の暮らしは一緒なんじゃ。人生を充実させようと思ったら、生活を充実させなきゃならん。毎日の出来事に自分なりに考えてしっかりと対応しなけりゃいかんのじゃ。もちろん、楽しい気分で前向きにな」
 
じいちゃんの言ってる事はわかりにくかったが、ボクの為に一生懸命なのは伝わった。
 
「あー、今日は良い感じで酔っ払ったな。はっはっはっ。マサオ、今日は終わりにしよう。またメールしてくれ。わしゃちょっと寝る」
「うん、またね」
 
じいちゃんとの会話を終えて、ボクは早速入道雲の作り方を検索してみた。
 
用意する物。ガラスのコップ、冷えた水、冷えた牛乳、ストロー、ライターもしくはロウソク……手順を読んでYouTube動画も観た。意外と簡単そうだが上手くいくかどうかちょっと自信がない。でも、なんだかとても楽しい気分だ。よしっ! まずは一生くんに電話しよう。
 
ボクはドタバタと階段を駆け下りた。そこでふと気が付いた。あ、牛乳あるかな? ボクは勢いよく台所に向かう。
 
「お母さーん、今牛乳ってある?」
 
(終わり)