小説(三題話作品: 生 入道雲 ウイルス)

とある高校の夏休み直前のホームルーム2020 by 御美子



「起立、礼、着席」

「皆さん、おはよう。新型コロナのせいで延び延びになってた夏休みが始まるわね」

「峰理事長、今年の夏休みも何か企んで、じゃなくて、プロジェクトを企画されていらっしゃるんですか?」

「相変わらず勘がいいわね、学級委員から昇格した生徒会長君。勿論、優秀なあなたたちを遊ばせておく手はないわ。今年も実益を兼ねた実習を用意してるわ。概要について話してちょうだい、吉永先生」

「かしこまりました、理事長。みんな心して聞くように」

「すっかり峰理事長の手足となって働いちゃって……」

「こら、私語を慎め。早速だが、我が校は理事長先生の幅広いご活躍のお陰で、黒歴史を消したいクライアントの案件が引きも切らないのは知ってるな」

「はい、お陰で普通の高校生がやるような勉強は殆どできてませんが」

「内容が内容だけにデータの保管に慎重を要する。クラウドサービスを利用することも考えたが、セキュリティ上問題があることに変わりはない」

「そんな分かり切ったことを今更……

「だから、クラウドサービス自体を我が校でやっちゃおうってわけ」

「峰理事長、また、そんな突拍子もないこと言っちゃって……。えっ、まさか本気ですか?」

「そのまさかよ、生徒会長君。続きを話してちょうだい。吉永先生」

「理事長が仰ることは絶対なので、決定事項として伝えるが、まず、我が校の拠点を日本国内4箇所に設ける。学校名は学校法人峰学園伊達校・坂東校・山城校・比古校とする」

「それって、もしかして江戸時代の方言と関係あります? 伊達校以外は入道雲の地方別呼び名と似てますが」

「さすが生徒会長君。歴史に加えて方言に詳しい男も好きよ」

「伊達校は北海道と東北、坂東校は関東甲信越、山城校は関西中国、比古校は九州四国地方担当となる」

「日本にある1,200社以上のクラウドサービスのうちビッグ3、Amazon・Microsoft・Google の日本国内にあるクラウドデータセンターは、それぞれ3箇所・2箇所、0よ。我が4校は全てクラウドサービスセンターを兼ねてるの」

「日本企業も参入し始めてはいるが、クラウドコンピューティング・ストレージ・データ解析処理は、まだまだ米国の技術頼みだ」

「で、僕たちに、いったいどうしろと」

「我が校の精鋭学生を4校に分散し、各拠点で優秀な学生をリクルートしてプロジェクトに参加してもらうのよ」

「因みに、僕はどこへ行けばいいのでしょうか」

「生徒会長君には坂東校に残ってもらって、副会長が山城校、書記二人は伊達校と比古校に行ってもらうわ。リクルートは、当面生徒会長以下4名と吉永先生を含め5人でzoomを使ってオンライン面接をしてもらうわ」

「峰理事長は面接に立ち会わないんですか?」

「私には、表より裏の仕事が向いてるでしょ。黒歴史だらけの金持ちに接近して、このプロジェクトの資金をむしり取るついでに、プロジェクト自体を阻まれないように、色仕掛けで封じなきゃならないし」

「何だか生々しいですね」

「あっ、それから、早急に我が校独自のオンライン面接システムを構築すべきですな。新型コロナ以降、会社や学校などでzoom利用者が急速に広がり、ウイルス同様に蔓延しそうですから」

「zoomの無料サービスだと、中国にあるサーバーを経由するから、くれぐれも気をつけてちょうだい」

「でも、優秀な学生って集まるんでしょうか」

「その点は心配ないわ、生徒会長君。今、学校教育が変わろうとしているわ。子供の頃から受験戦争に打ち勝って、やっと手に入れた一流企業への就職が、一瞬にして消える世の中になったのよ。優秀な学生ほど、ありきたりな教育じゃサバイバルできないってことが身に染みて分かった今こそチャンスだと思わない?」

「そうだぞ。峰先生に付いていけば間違いない」

「それはどうかしら? 吉永先生。私はお金になりそうだから、やってるだけよ」