網焼亭田楽の新作噺

「番町皿屋敷」   by 網焼亭田楽

「おい、よたろう」
「なんでございましょう、だんな様」
「これからはグローバルな世の中だ」
「野球のグローブのことでございますか」
「だから、おめえはバカにされるんだ」
「日本も国際化しているんだ。おめえもそろそろ学問を身につけなきゃならねえな」
「白サイ、黒サイは聞いたことがありますが、コクサイなんてサイもいるんで?」
「なに言ってんだい。これから生きていくにゃあ、英語ぐらい話せなきゃならねえってことだよ」
「あっしは英語はちんぷんかんぷん」
「これからはそうも言ってられねえんだ。とは言うものの、つまんねえ話題では英語を覚えようって気にもならねえだろう。おめえ、確か怪談話が好きだったな」
「へえ。怪談話は三度の飯より好きでございます。今朝も牡丹灯篭をおかずに飯をひっかけてきたところで」
「むちゃくちゃだなあ。まあ良い。わしが番町皿屋敷という怪談話で、おめえに英語を教えてやろう」
「番町皿屋敷ですって!」
「いやか」
「大好きでございます」
「ってことは、内容はだいたい知ってるな」
「もちろんですとも。お菊さんが井戸のあたりで皿を数えるんですよね」
「よく知ってるじゃねえか。女心をあらわにして、切なそうに皿の枚数を数えるところがクライマックスだ」
「そうそう。切ないなあ」
「ところで、皿を英語でなんて言うか知ってるかい」
「いえ。お知りになりません」
「変なやつだね、こいつ。英語の前に日本語を勉強させなきゃなんねえな」
「で、なんて言うんで」
「皿のことは、英語でディッシュと言う」
「デッシュ?」
「おめえ発言わりいな」
「そうでっしゅか」「つまんないこと言ってねえで、次いくぞ。じゃあ、皿の数え方は英語ではなんて言うか知ってるかい」
「ああ、それなら知ってまさあ」
「えっ、本当かい。こいつぁ驚いたねえ。で、なんて言うんだい。感情を込めて切なそうに言ってみな」
「へい。1センチメンタル、2センチメンタル…」


毎度バカバカしい、よたろう話でございました。おあとがよろしいようで。