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ショートショート

見えなくなる薬   by 夢野来人

「やったぞ。ついに完成だ」


「やりましたね、博士。これで博士は誰からも見られることなく、極秘任務を遂行できるのですね」


「そうじゃ。まずは、助手のおまえで実験してみることにしよう」


「わ、私ですか」


「あたりまえじゃ。もしも、わしの身に何かあってみろ。この研究が進められなくなってしまう。そうなれば、極秘任務どころではなくなってしまうじゃろ」


「それは、そうですが」


「なに、心配はいらんよ。効き目はともかく、安全性には自信がある。それに、実験が成功すれば、極秘任務を遂行できる第一号だぞ」


「博士、やらせていただきます。私は責任感の非常に強い助手です。極秘任務のためとあらば、多少の危険など覚悟の上です」


「さすがは、わしの助手じゃ」


「でも、本当に大丈夫でしょうね」


「ああ、まちがいない。この薬さえ塗れば、どんな光も反射しない。つまり、誰にも見えないということじゃ」


「そうですか。極秘任務のためですからね。思い切ってやってください」


「よしよし。それでは、ペタペタペタと」


「どうです、博士。見えなくなりましたか」


「………」


「あれ。失敗かな。博士ったら、聞こえなくなる薬を作っちゃったんですか」


「い、いや。まったく見えない」


「やったあ。成功したんですね。それでは、極秘任務に行ってまいります」


すべての光を吸収し、助手の姿は完璧に見えなくなった。そのクッキリと見えなくなった人型の黒い物体は、極秘任務遂行のため女湯へと急ぐのであった。