第3回 地獄へのチケット

 さて、だいぶ地獄にご興味が沸いてきたのではないでしょうか?
しかし前回でご説明したように誰でも、地獄へ行けるというわけではありません。この世での大罪が地獄へのチケットになります。しかも各地獄へ行く為の条件があります。八つの地獄のどこに落とされるかは、生前に犯した罪の種類で決まります。下層の地獄ほど苦しい刑罰が行われていて、罪の重い罪人はより下層に割り振られます。
生前の罪と落ちる地獄は以下の様に対応してます。
 
 
         等活 黒縄
衆合 叫喚   大叫喚  焦熱  大焦熱
殺生
偸盗(盗み) x
邪淫(不適切な性行為) x x
飲酒 x x x
妄語(嘘をつくこと) x x x x
邪見(嘘をつくこと) x x x x x
尼を犯す x x x x x x

表の見方:罪の欄に○がついているのがその罪を犯したということを表わします。
殺生をした人は、等活地獄。殺生と偸盗(盗み)をした人は、黒縄地獄へ行く。というようになります。
 
無間地獄はもっとも重い罪を犯した人が行きますので、上のリストにはありません。
以下の条件が必要です。
無間地獄:五逆罪を犯し、因果の道理を否定し、大乗の教えを誹謗し、四重の禁を犯し、信者からの布施を受けて暮らす。
 
ちょっと解説がいりますね。
 
・五逆罪:父を殺す、母を殺す、聖者を殺す、仏の身を傷つけて血を流させる、教団の和を乱し、破壊する、の5つの罪。
・大乗の教えを誹謗:この世の全ての存在を、悟りに導き、救おうとする仏の誓いや教えをけなすこと。
・四重の禁:婬(淫:不適切な性交渉)、盗、殺人、大妄語(悟っていないのに、悟っていると嘘をつくこと)
 
 
この地獄は、他の地獄と比べて桁違いに重い罪を犯した者が落ちる地獄で、後に詳しく書きますが、受ける刑罰も強烈です。
 
【Prison Term:刑期】
いちばん刑期が短いのは等活地獄で、500年間です。ただし、この500年は地獄の時間での500年であり、人間の世界の500年よりも遥かに長いのです。
具体的には、地獄での一昼夜が人間界の約900万年にあたります(平安期の暦なので、1年=360日で計算)。
なので、500年だと
500(年)×360(日)×900万(年)=約1兆6千億年

とんでもなく長い時間ですよね。
 
ですが、これはまだ序の口。
等活地獄の下にある黒縄地獄の刑期は、等活地獄の8倍。更に、黒縄地獄の下にある衆合地獄の刑期は、黒縄地獄の8倍……と、焦熱地獄までは、刑期の長さは一つ上の地獄の8倍ずつ増えていきます。
ちなみに、6番目の焦熱地獄の刑期の長さは、最初の等活地獄の約3万倍の長さ。
人間時間に換算すると、
1兆6千億×3万=約5京年

です。
7番目の焦熱地獄と、8番目の無間地獄の刑期は「中劫」という時間の単位で表されていますが、これは計算ができないほど大きな数字、くらいに捉えて頂ければ良いかと。
 
ついでに地獄で受ける苦しみについてですが、これもいちばん上の等活地獄を基準として、下の地獄で受ける苦しみは、一つ上の地獄の十倍ずつ、で増えていきます。
ただし、最後の無間地獄だけは例外で、ここで受ける刑罰の苦しみは、等活地獄から大焦熱地獄までの七大地獄と七大地獄に付随する小地獄を全部合わせたものの千倍、とされています。
 
とても数字にこだわったシステマチックな作りは緻密ですごいと思います。現在のカレー店の辛さの倍数システムより、その緻密さは、数万倍.......かもしれません。