ある所に大きな木が立っていました。
枝には鳥たちが巣を作り歌い、幹には虫達が集まり樹液を吸い、根元には日差しの強い日は日陰を作り雨の時は傘になり動物たちを守っていました。
自分達が生まれる前から存在し、何年も何年も見守ってくれている老木。
そんな老木に限界が来ました。
ある日、大きな台風がこの木を襲いました。
鳥たちは枝に身を潜め、虫達も葉の裏で動かず、動物たちも根元に固まって台風が行き過ぎるのを堪えていました。
きっとこの木は自分たちを守ってくれる。
台風一過。
翌日はよく晴れた気持ちの良い日でした。
再びいつものように鳥が歌い虫も樹液を吸い、動物たちが遊んでいます。
ところが突然、みしっみしっと音がすると、大木が倒れてしまいました。
みんなは呆然とそれを見守るしかありませんでした。
そこにあるのが当然でいつまでも存在するものと思っていたのに突然それが無くなってしまいました。
鳥たちは思いました。
私たちはこの木のために一度でも歌ったことがあっただろうか。
虫達は思いました。
僕たちは一度でも感謝の気持ちを伝えた事があっただろうか。
動物たちは思いました。
何故もっとこの老木の状態を気にかけなかったのだろうかと。
みんなが泣き続け小さな水たまりが出来ました。
その水たまりを覗いてみると小さな双葉が生まれていました。
そうだ。
この双葉を大事に育てよう。自分たちを見守ってくれていたこの木を今度は見守っていこう。
無くしてからでは遅い。今ある時に気持ちを言葉で伝えよう。
無くしてから気付く想いを忘れず大切にしていこう。
そしてきっと立派な木に育った時は自分たちの子孫を守ってくれるだろうと。
了