「おい、よたろう」
「なんでございましょう、だんなさま」
「おめえ、人命を救助したことあるかい」
「へえ。とんと、ご無沙汰しております」
「ないんなら、ないっていやあいいんだよ」
「ございません」
「あたしは昨日、救命救急の講習を受けてきたばかりなんだ。おめえにも、人命救助の方法を教えてやろうじゃねえか」
「それは、ありがたき幸せ」
「大げさなんだよ。まあ、いいや。いいかい、ここに人が倒れてるとするだろ」
「てえへんだ、てえへんだ。誰かを呼ばなくっちゃ」
「おめえが助けるんだよ」
「えっ、あっしが」
「そうだよ、おめえだよ」
「どうしていいかわかんねえ」
「だから、それを教えてやろうってんじゃねえか」
「で、どうするんで」
「まず、両肩をたたいて『大丈夫ですか、大丈夫ですか』と声をかける」
「大丈夫じゃねえから倒れてるんでしょ」
「意識があるかどうかを確認するんだよ。いいから、おめえもやってみな」
「へい。両肩をたたいてと、『大丈夫ですか、大丈夫ですか。大丈夫じゃねえですよね。だって、ピクリとも動かねえもの』」
「余分なこたぁ言わなくても良いんだよ。次に呼吸をしているかどうかの確認だ。倒れている人の口元に耳を近づけて、息をしているかどうかの音を、耳で聴いたり肌で感じたりしながら、胸を見て上下しているかどうかを見る。言葉としては、『見て、聴いて、感じて』って言うんだ。初めから、通してやってみな」
「へい。『大丈夫ですか、大丈夫ですか』。あっ、意識がない。『見たい、聴きたい、歌いたい』」
「おいおい、どこかの歌番組みたいになってるぞ。いいかい、『見て、聴いて、感じて』で3秒だ。10秒まで呼吸を確認するんだ。『見て、聴いて、感じて。4、5、6、7、8、9、10』。よたろう、やってみな」
「へい。『見たい、聴きたい、歌いたい。ス、ゴ、ロク、しっ、ぱい、くやしい、じょー』」
「全然違うものになってるじゃねえか。まあ、いいや。呼吸をしていないのを確認したら、まわりの人にも手伝ってもらう。『あなた、119に連絡して下さい。あなたは近くにAEDがあったら持ってきて下さい。あなたは、できるだけ多くの人を集めてきて下さい』。そら、やってみな」
「ちょっと、セリフが長すぎやしませんか」
「いいから、やってみな」
「へい。呼吸をしていない。『あなた、104に電話して下さい。あなたは近くにEDの人がいたら、なるべく多く集めてきて下さい』」
「そんなことしてどうするんだい。でえいち、104ってなんだい」
「いえね。119の電話番号を調べなくちゃならねえと思いまして」
「じゃあ、EDってのは」
「成人男性の病気かと」
「どおやら、おめえには無理だな。呼吸がないのを確認したら、素直に救急車を呼んだ方が良さそうだ」
「それならできまさあ。あっ、呼吸をしていない。『誰か霊柩車を呼んでください』」
「あーあ。とうとう、殺しちまったよ」
おあとがよろしいようで。