毎度毎度のお笑いでございます。
「おい、よたろう」
「なんでございましょう、だんな様」
「イメージトレーニングって言葉は知ってるかい」
「もちろんですとも。こういっちゃあ何ですが、あたいは毎日毎日イメトレをしております」
「ほほお。いってえ何のイメトレをしているんだい」
「まず、左手をこう。次に右手をギコギコ。さらに左手でグサッ。それをモグモグ」
「何やってんだい」
「ええ。いつ、晩飯にステーキが出てもいいように、毎日イメトレをしてるんで」
「バカだねえ。うちの晩飯にステーキなんて出っこないだろう」
「もしもに備えまして」
「つまんねえこと言ってねえで、もっとまともなイメトレをやっておくれよ」
「たとえば、どんな?」
「おめえ趣味は持ってるかい」
「すいません。お習字には興味がございません」
「墨じゃなくて趣味だよ、趣味」
「ああ、趣味ですね。あいにく、そっちの趣味はございませんでして。おほほ」
「なんだよ、気持ち悪いなあ。違うよ違う。なんか興味のあることはねえかって聞いてるんだよ」
「そうですねえ」
「ねえのか」
「あります」
「なんでえ」
「女」
「ったく、よたろうときたらこれだからいけねえな」
「男が趣味というよりは、よっぽどいいかと」
「そんなこと言ってるんじゃねえよ。普段暇なときに、なんかしてるこたあねえかって聞いてるんだ」
「ございますよ」
「それだよ、それ。そいつのイメージトレーニングをしようじゃねえか」
「そんなことするんで」
「あたりめえよ。興味のねえことのイメトレをしたってつまんねえだろ」
「確かにそうですが」
「じゃあ、おめえが暇なときにしていることを思い浮かべてみな」
「どうして」
「イメトレをするんだよ、イメトレ。いいから黙って思い浮かべな」
「いいんですかい」
「ああ。どうだ、思い浮かべたかい」
「へい。思い浮かべました」
「ここからが重要だ。その大会で優勝することを考える」
「そんな無茶な」
「バカだなあ。イメージとして思い浮かべるんだよ。ほんとに優勝しろなんて言っちゃいねえよ」
「そんな大会ありましたかね」
「なけりゃ作ればいいんだよ。そこでイメージトレーニングをして鍛えようってことじゃねえか。つべこべ言わずに思い浮かべるんだ」
「わかりました。だんな様がそこまでおっしゃるんなら」
「どうだい、思い浮かんだかい」
「へい、なんとか」
「いいかい。イメトレってのは強い信念をもって取り組まなけりゃいけねえんだ。もしも、邪魔しようなんて奴がでてきても、決して口を利いちゃいけねえよ」
「へい、わかりました」
「どうだい、うまくいきそうかい」
「実際その場になってみねえと、はたしてうまくいくのかどうか」
「それがいけねえな。実際にその場になっても、イメージトレーニング通りのことをすればいい」
「そうですか。なんだか自信がついて来ました」
「よし。今日はこのへんでいいだろう」
「………」
「おい、よたろう。どうしたんだい。イメトレのしすぎでおかしくなっちゃったのかい」
「………」
「いったい何のイメトレをやっちまったんだろう。よたろうが暇なときにしていることって何だったんだ。おい、よたろうー」
「………」
「大丈夫かーい。よたろうー!」
「ああ、惜しい。もう少しで優勝だったのですが。こううるさくちゃ、昼寝大会のイメトレもオチオチしていられねえ」
おあとがよろしいようで。