「おい、八っぁん」
「なんでい、熊さん」
「おめえ、最近はやりの天気話法って知ってるかい」
「あたぼうよ。あの当たるんだか当たらないんだかわかんないような、天気を占う妖術みてえなもんだろう」
「なに言ってんだよ。天気予報は、科学的な裏付けがあっての予報だよ。妖術じゃねえだろ。でも、俺が言ってるのは天気話法。天気予報とは、ちと違う」
「天気話法だって? 天気予報とどう違うんだい」
「天気予報で使う言葉を真似て日常会話に使い、人間関係を円滑にしようって話術さ」
「やっぱり、妖術みてえなもんだろ」
「違うよ、話術」
「あの甲高い声の?」
「なんでい、そりゃ」
「口パクパクの?」
「なんでい、なんでい」
「いっこく堂とかいう?」
「それは腹話術。腹はいらねえんだよ。ただの話術。腹はねえの」
「そりゃ、いけねえや。それじゃ、まるでおいらと飲んでる時の熊さんだ」
「なんでだい?」
「いつも払わねえ」
「そっちの払わねえじゃねえよ。わかんないやつだねえ。いいかい、これから俺が天気話法っていうのを教えてやるよ」
「断る!」
「おいおい、八っぁん」
「おいらは、そんな妖術みてえなものに興味はねえ」
「なんだい、そうかい。これを知ってりゃ、女性にだってモテ放題なんだがな。ま、興味がねえんじゃ、しょうがねえ」
「ちょいと、そこのお兄さん」
「なんでい、急に気持ち悪い声なんか出しやがって。いいよ、いいよ。興味のねえやつに話したって、そりゃ聞きたくねえだろう。俺が悪かったよ。じゃ、帰るよ」
「ちょと待てちょと待て、お兄さん」
「だから、なんなんだよ」
「レッスンこれから何します?」
「おいおい、八っぁん、さっきと随分態度が違うじゃねえか。そうかいそうかい、ちっとは興味が出てきたかい」
「へい、大ありで」
「現金なやつだね、まあ、いいや。じゃ、教えてやるから、よく聞きなよ」
「それを聞けば、モテモテ人生」
「ああ、まちげえねえな。まずは、今日の天気予報を言ってみな」
「えっ、ちょいと待ってくれよ。確か、晴れ時々曇り所によりにわか雨」
「よく覚えてるじゃねえか。それを口説き文句に使うんだよ」
「そんなんで落とされる女性なんているんかい?」
「もちろんさ。おっ、ちょうど向こうから綺麗なご婦人がやってきた。ちょいと見てな」
「あのう、すみません。ちょいと道を尋ねたいのですが」
「あら、どちらへ行きたいのですか」
「おや、こりゃたまげた」
「どうなさいました」
「いえいえ、奥さんがあまりにお綺麗だったので、見とれてたところです」
「あらやだ」
「いやあ、それにしても、晴れ渡る空に浮かぶ富士びたい。時々見せる上目遣い。所により輝くエクボが何とも魅力的でございます」
「まあ、お上手ね」
「時に、この辺で大福を売ってるお店をご存知ありませんかい?」
「それなら、私の行きつけのお店があるわよ。いちご大福なんかも美味しいのよ」
「へえ、大福にいちごですかい」
「あら、意外とこれがいけるのよ」
「あんことイチゴのコラボですね」
「ああ、私も食べたくなっちゃった。一緒にご案内して差し上げますわ」
それを見ていた八っぁん。
熊の野郎うまくやりやがったな。そうか、あれが天気話法ってんだな。よし、おいらも真似してみよう。ちょうどいい塩梅に、またまたご婦人が歩いてきたぞ。
「あのう、すみません。ちょいと道を尋ねたいのですが」
「わだす、この辺の土地のもんじゃないすけど」
「おや、こりゃたまげた」
「どげんなさった?」
「いえいえ、奥さんがあまりにお綺麗だったので、見とれてたところです」
「あらやんだべ。それに、わだす、こう見えても独身だべ」
なんか変だなあ。次は何だったかなあ。そうだそうだ。晴れ時々曇り所によりにわか雨だったな。
「いやあ、それにしても、腫れたまぶたで時々ウィンク。所により輝くアバタが何とも」
「まあ、失礼な人だんべ」
「時に、この辺で大根を売ってるお店をご存知ありませんかい?」
「おめえみてえな失礼なやつに、知ってたって教えてやるもんか」
そう言って、女性は去って行ってしまいました。
あっりゃあ。失敗しちまったなあ。熊のやろうは当たりでおいらはハズレかよ。
天気話法とは天気予報を真似たもの。当たる時もあればハズレる時もあるようです。
お後がよろしいようで、、、