ショートショート

不似合いなカップル   by 夢野来人

世の中には、どうしようもなく似合わないというものがたびたびある。たとえば、この服にこの靴はどうみても似合わないとか、この料理にこの飲み物はいかにも合わないとか、この部屋にこの置物はおかしいだろうとかいうものである。まあ、普通の人はその辺の価値観が同様であり、ある人が似合わないと思うものは、他の人も似合わないと感じるものである。


ところが、自分ではひどくまじめに選んだつもりなのに、まわりの人から見るとまったく似合わないというような時がある。それが一度や二度のことならば、人間であれば、むしろあって当然と言えるが、いつもいつも、選ぶたびに不似合いなものを選んでしまうという特殊な人もいる。こいつ、わざと合わないものを選んでいるんじゃないかと疑いたくなるほど、毎回毎回みごとなミスマッチを選んでくれる。二者択一問題を十問すれば、おそらく全問不正解という快挙をいともたやすく成し遂げてくれることであろう。


また、そういう人に限って、絶妙な間の悪さを合わせ持っているものである。落語の世界には与太郎という人物が登場するが、彼はそういう人種の代表格であるといえよう。ともかく、こればかりは勉強とか修行とかで身につくものではなく、天性のものなので、真似をしようと思ってできる芸当ではない。もっとも、誰も真似などしたくないかもしれないが…。それはさておき、困ったことにそういう人種が好きになってしまう人というのが、とんでもなく変わった人かといえば、これがまた不思議なもので、ごくごく一般の普通の人が好むタイプの女性なのである。ここだけは、価値観が同じである。


つまりは、そういう人種とはまったく不似合いということになるのだが、好きになってしまうので仕方がない。


もしも、自分が選んだものが、人から見て「どうなの?」というような経験をお持ちのあなた。自分が好きになってしまった人が、客観的に見て不似合いだと思われたことがあるあなた。最近、なんとなく間が悪いなあと感じることが増えてきたあなた。大丈夫ですか? 知らぬ間に「不似合なカップル」症候群におちいっているかもしれませんよ。


『本当、気をつけなくちゃなあ』


そう、本当に気をつけなければなりません。


『人ごとではないな』


人ごとではないんです。


『嫌われてしまっては、それまでだからな』


二度と寄り付かなくなってしまいます。


『おまえ、俺の声が聞こえるのか』


何を今さら。


『いやあ。危ない、危ない。寄り付くのをやめよう』


こちらこそ、願い下げです。だいたい、こんなところで唐突に登場するなんて、ストーリー的に不似合いではありませんか。それに、間が悪い。さては、あなた「不似合なカップル」症候群にかかっているのではありませんか。近寄らないでくださいよ。伝染性があるんですから。


『わかった、わかった。こんりんざい、おまえには近づかないよ。でも、気の毒になあ』


いつまでいるんですか。早く帰ってください。


『われの声聞こえし者、われら福の神とのワーストカップル』