「やったぞ、ついに完成だ」
「やりましたね、博士。これさえあれば、何でも見えるのですね」
「ああ、そうじゃ。これさえ飲めば、天体観測から微生物の足の動きにいたるまで、手に取るように見えるのじゃ」
「微生物は、できれば手に取りたくありませんが」
「わしだって、月を手に取りたくはないわ。はっはっは」
いつもの研究室の風景である。
「さあ、おまえ飲んでみろ」
「また、私ですか」
「あたりまえじゃないか。わしの他には、おまえしかおらんじゃろ」
「本当に何でも見えるようになるんでしょうね」
「もちろんじゃ。お望みとあらば、エックス線機能も、サーモグラフィ機能もついておる」
「てことは、透けて見えたり、温度によって赤く見えたり青く見えたりするってことですか」
「ああ、そうじゃ」
「それは、おもしろそうですね。博士、ぜひともやらせてください」
いつまでたっても、単純な助手である。
「今回は、飲みやすいようにヨーグルト味になっておる」
「それは助かります。前回のは、酸っぱすぎて飲みにくかったので」
「よし。では、まず炭酸の顆粒を口に入れて」
「何でそんなことするんですか」
「いいから、いいから。お腹のなかで膨らむんじゃよ」
「そんな必要があるんですか」
「細かいことは気にするな。そんなことでは、極秘任務は遂行できんぞ」
「えっ。今回も極秘任務があるんですか」
とにかく、極秘任務の好きなお二人である。
「ああ。今回のは、特別な極秘任務じゃ」
そもそも、極秘任務とは特別なものである。
「博士。早く教えてくださいよ」
「よしよし。ヒソヒソヒソ」
博士は、助手に耳打ちした。
「えっ。そんなこともできるんですか」
どうせ良からぬことに違いないが、少し気がかりではある。
「では、頼んだぞ」
「わかりました、博士」
助手は、炭酸の顆粒を口に入れ、カプセルに入った水で流し込み、すぐさま博士の作った薬を一気に飲みほした。心なしか、助手の口のまわりには白い液体が付着しているようだ。
「どうじゃ。良く見えるようになったか」
「う〜ん。イマイチ良くわかりませんが。あれ。ちょっと待ってくださいよ。あ〜、見えてきた、見えてきた」
「そうか、そうか。で、何が見える。金星の輪か、それとも、バクテリアの足か。早く教えてくれ」
普段なら大はしゃぎするはずの助手が、なぜか落ち着いている。
「いや、やめておきますよ。なんだか、バカらしくなってきちゃいましたよ」
「何をいまさら。おまえは、たった一人の優秀なわしの助手ではないか」
「そんな、心にもないこと言ったってダメですよ。この薬のおかげで、博士の心の中も見えてしまいましたから」
「………」