Mirubaのワルツィングストーリー

車窓の雪景色   by Miruba

♪白い恋人たち <このページの下のyoutubeでお聴きいただけます>

最終の新幹線に乗っていた。
"道中に隣り合わせる人が素敵な人ならいいな"と思うものだが、
その時バッチリだった。 "わ、かっこいい♪"
「あ、どうも、こんばんは」どちらともなく交わす一期一会のご挨拶。


車窓はビルのネオンサインを移し、すぐに団欒を想像させる住宅街を見せた。
雨かと思ったほぼ真横に流れる水跡は霙(みぞれ)の様である。
それが雪に変わったのは浜松を過ぎてから、名古屋まではスピードを落とし何とか進んだが、京都でストップした。
朝までは動きそうに無い、とアナウンスがある。


その頃にはすっかり打ち解けていた隣の彼が、
「ね、此処で朝までいたってしょうがないよ。ここらは出張でよく来るんだ、
安くていいホテル知ってるよ。いかない?」と言った。


「そうね。そうするわ。お腹もすいてきたし、外で食べましょう」
私がすんなりOKしたので、かえって驚いた様子。だが嬉しそうに笑顔を見せた。


「ねぇあなたもこない?迎えのおじさんに、電話すればいいじゃない?」


その子は、通路を挟んだ隣に一人で座っていた女の子だった。
彼女の落としたお菓子を拾ってあげたのがきっかけで、さっきから時々声をかけていた。
東京の父親に送ってもらい、迎えにはおじさんが博多まで来るのだという一人旅だ。


アナウンスに不安の顔を隠さなかった彼女だが、私の提案にほっとしたように「うん」とうなづいた。なんといってもまだ4年生だ。


「あちゃー!そういうことか。どうも話がうまく進むと思った」
彼が大げさにガッカリした声を出したので、みんなで大笑いをした。


うどんを食べてホテルに入ったら、女の子は疲れたのかすぐに寝てしまった。
もったいないのでツインにエキストラベットを入れてもらい3人同じ部屋にしたので、やはり寝付けるわけも無い。彼と私は女の子の寝息を聞きながらビールで乾杯する。


「なんか家族で来ているようで楽しいね」彼が言う。
フロントでも家族に間違われ、女の子も私に「ママ~」などと呼びかけてふざけ合ったことが思い出された。彼も、家族のように偽名を書いていた。悪ふざけもいいところだ。




「俺ね、何年も付き合ってる彼女とやっと婚約したんだけれどね。これでいいのかなぁ、本当に彼女と結婚してやっていけるのかなって、ちょっと不安でね」
彼が空になったグラスをもて遊びながらつぶやいた。
「へー男性でもマリッジブルーってあるのね」


「ね・・・・・・・・抱いていい?」
「あなたも大胆ね。彼女の隣で? 
あのね、私は大好きだったおばあちゃんのお葬式にいくところなの。
これでもおばあちゃんのこと考えると涙が出そうになるのよ。
悪いけれど、その気にはなれないわ」
「そうだったんだ。それはご愁傷様。なんだか今日は運がいいのだか悪いんだか」
彼が大げさに頭を振るので、思わず噴出した。


大好きだった祖母が亡くなったことを、まだ受け止められずにいた私は、この楽しい彼と、可愛い女の子との出会いを、天国へ召されようとする祖母がプレゼントしてくれたような気がした。


次の朝、一時間ほど新幹線の中で待ったが午前中に福岡に着いた。
女の子のおじさんに彼女を引き渡さないといけない様な気がして、おじさんを探した。


だが、なかなか現れない。


女の子が、すすり泣きを始めた。
「こないかもしれない」
「え?そんなこと無いよ。昨日、ちゃんと説明したもの」と私。


「ううん、おじさんはお母さんの旦那さんだったの。
お母さんが死んじゃったから、私東京のお父さんに引き取られたんだけど、お父さんは仕事が忙しいし、新しいお母さんとの間に赤ちゃんがいるから、私、おじさんのほうがいいの。3歳のときからずっと、いつも一緒に遊んでくれたもの。
でも、おじさんと私は赤の他人だから。きっとおじさんは来ないわ」


不意に、横のほうから声がした。


「赤の他人のおじさん登場!ばかか、おまえ。 
おじさんは、お前を赤の他人と思ったことはなかばい。 
・・遅れて悪かったですね。道の混んどったとですよ」
最後は、私たちのほうに向かって言った。


女の子はおじさんにしがみついて泣きだした。


深々と頭を下げるおじさんと、今はもう笑顔になってバイバイと手を振る女の子を私たちは見送った。


「さて、仕事に行くかな。ありがとう、楽しかったよ。」
「こちらこそ、雪の素敵な時間だったわ。結婚して幸せになってね」
「おばあちゃん、ご愁傷様」
「・・・うん」


しっかりと握手をした。


彼はタクシー乗り場へ、私はまた乗り継ぎのバスへそれぞれ別れた。




お互いに名も知らない印象に残る一期一会だったが、
彼と女の子は、あの雪の日を、想い出すことがあるだろうか・・・


写真:TechnophotoTAKAO テクノフォト高尾
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